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2019年2月16日 (土)

Science 脱分化脂肪細胞の臨床応用化――取り組み ①

秋田大輔(日本大学歯学部助教授)・伊藤智加(日本大学歯学部講師)・月村直樹(日本大学歯学部准教授)・松本太郎(日本大学医学部教授)さんらのグループはDFAT(脱分化脂肪細胞)の特性とそれの臨床応用化に向けた取り組みを行なっている。→研究文を紹介する。コピーペー :
               要   約
 近年、歯科領域においても、破壊された組織に対して幹細胞によって機能回復を促す再生医療が着目されている。だが、組織再生のための理想的な細胞源はいまだ明らかにされていない。成熟脂肪細胞由来の脱分化脂肪細胞(DFAT)は、高い増殖能と多分化能を有した均一な細胞集団であり、口腔領域からも低度の侵襲で大量に調製することが可能なため、再生医療における有用な細胞源である。この研究文では、DFATの特性と臨床応用化に向けた取り組みを紹介する。
1. はじめに
 近年、疾病や外傷によって損傷を受けた器官・組織に対して機能回復を目指す再生医学が飛躍的に発展し、歯科領域においてもその有用性が目を着けられているのだ。歯科領域における再生医療の始まりは、水酸化カルシウムを歯髄に用いて新生象牙質の形成促進を報告したのが最初で、1世紀近くが経過している現在では、骨造成や歯周組織の再生が代表的に臨床応用されている。
 組織再生には多くのサイトカインを含む液性因子が複雑に関与するため、メカニズムの詳細は解明されていない部分も多いが、現在では特に、幹細胞や前駆細胞を用いて組織再生や機能回復を目指すことに重点が置かれている。
 また、最近では骨髄以外の口腔内組織にも間葉系幹細胞 (MSCs : mesenchymal stem cells) が存在することが明らかとなっており、組織再生のための現実的な細胞源と考えられているが、どの組織も採取に制約が存在する。
 一方で、脂肪組織は腹部のみならず顔面にも存在しており、比較的容易に採取可能な組織であることから再生医療に用いる細胞源として注目。ここでは歯科領域で目指す再生医療の課題と、成熟脂肪細胞由来の脱分化脂肪細胞 (DFAT) の特性を中心に臨床応用への実現化に向けた日本大学の取り組みを記す。
2. 歯科領域における再生医療の課題
 近年、我が国は超高齢社会に突入し、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は25%を超えている。先人の歯科医師たちの努力の結果、歯科医療は大きく発展したことは疑いようがないが、65~69歳の平均喪失歯数は7.2本であり、高齢になるにしたがって増加していく傾向。また、抜歯の原因の多くは歯周病やう蝕であることが報告。
 歯の喪失は、摂食障害・構音障害・審美的障害を招き、長期間放置すると、残存歯列や歯周組織、顎機能にも障害をもたらす。そのため、歯科口腔領域では、古来より口腔内器官の欠損に対して人工材料を補填することで機能の回復を図る治療が行なわれており、補綴装置を利用して機能回復を図る症例が一般的である。
 しかし、重度の歯科疾患に起因する高度の顎堤(骨)吸収は、補綴装置の安定性が悪くなり、機能回復は困難になるため、従来は術者の技術や歯科材料によって対応してきた 
 一方で、失った組織を補完・復元することを目的とする再生医療は、口腔機能の向上を目指す歯科口腔領域においてもその有用性が注目されている。組織再生には目標とする組織を構成する細胞に分化可能な”幹細胞”とそれを支持する”足場”、さらに適切な”成長因子”の3要素(=組織工学)が必要であることが提唱されている。
 近年ではこれらに加えて、移植部の”微小環境”と再生に要する”時間”を加えた5要素が重要であると考えられており、特に幹細胞や前駆細胞を利用した組織再生が有望視されている。理論上すべての組織に分化可能な胚性幹細胞 (ES細胞) が樹立されて以来、再生医学は飛躍的な発展を遂げたが、ES 細胞は受精卵を利用するため、倫理的な側面から臨床応用は敬遠されてきた。
 また、ES 細胞の未分化性の維持に関わる遺伝子を皮膚線維芽細胞に導入することで樹立される iPS細胞は、ES細胞が抱える免疫拒絶反応や倫理的問題を克服するため、げんざい、再生医療への応用が期待されている。
 しかし、未分化性の高い iPS 細胞は腫瘍化のリスクがあるため、目的の細胞に分化させてから移植することが考案されているが、時間とコストがかかることが課題とされている。
 一方で、MSCs を中心とする組織幹細胞は、生体内の多くの組織に存在し、多分化能と細胞増殖能といった特徴を有する。再生可能な組織は限定的であるが、腫瘍化のリスクが低く、安全性が高いと考えられているために、臨床研究や基礎研究が多く報告されている。
 様々な組織由来の MSCs が再生医療に有用であることが報告されているが、多分化能と高い細胞増殖能を有し、細胞の純度が高く、歯科医師にとって容易に採取できることが歯科領域における理想的な細胞源であると考えられている。
 口腔内組織には、骨髄由来の MSCs の他、歯胚、歯髄、歯根膜、骨膜等に MSCs が存在することが報告されており、口腔領域の組織再生に有用だと考えられている。
 しかしながら、これらの組織を実際に利用するには、歯や骨片を含めた骨や骨膜を採取するため、患者の侵襲も大きくなるだけでなく、得られる量も限定されるため、移植細胞源としての有用性は高いとは言えないのが歯科領域における再生医療の課題と考えられる。          





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