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2019年2月17日 (日)

Science 脱分化脂肪細胞の臨床応用化――取り組み ②

続き:
3. 脂肪組織の特徴と脂肪由来幹細胞 (ASCs)
 脂肪組織は、長年、エネルギー貯蔵庫として考えられてきたが、現在ではアディポカインの産生を介して身体の恒常性に多様な機能を発揮する重要な器官であることが明らかになっている。
 脂肪組織は成熟脂肪のほかに、血管を構成する血管内皮細胞 、平滑筋細胞、ペリサイト、組織マクロファージやTリンパ球、前駆脂肪細胞などから構成されることが知られている。細切りした脂肪組織を酵素処理後に濾過して遠心分離を行うと、フラスコ底部には成熟脂肪細胞以外の間質細胞群が沈降する。
 この間質血管分画 (SVF : stromal-vascular fraction) には、血管内皮細胞、平滑筋細胞、組織マクロファージやリンパ球などが混在し、MSCs が2%程度存在することが明らかにされている。SVF中のMSCs は脂肪由来幹細胞 (ASCs : adipose-derived stem cells) と呼ばれ、培養すると高い細胞増殖能を示す。ASCs は適正な培養環境下で脂肪、骨、軟骨などへの多分可能を示すとともに、多くの液性因子を分泌し、組織修復に作用すると考えられている。
 筆者がラットに作製した歯周組織欠損モデルに ASCs を他家移植した際には、細胞移植しかなかった群と比較して、5週間後に1.7倍程度の硬組織再生量が認められた。さらに、欠損内に新生骨組織とセメント質様硬組織、コラーゲン線維の埋入が認められ、蛍光標識した ASCs は再生組織中で陽性反応を示したことから、ASCs が破壊された歯周組織の再生を促進することを報告している。
 脂肪組織は骨髄などの組織と比較して、低侵襲かつ大量に採取することができるうえ、機能を喪失することがないため、ASCs は治療用細胞としての移植安全性と一定の有効性が示されている。また、ASCs はES 細胞やiPS 細胞と異なり腫瘍原性がないため、比較的容易かつ安全に移植できることから、現在では骨・軟骨欠損や心筋梗塞、多発性硬化症などを対象とした臨床研究が行われている。しかしながら、ASCs は様々な細胞が混在する細胞集団である。
 採取する患者の年齢や基礎疾患によって影響されることが明らかになっている。それゆえ、同じ品質の治療用細胞を調製することは困難であり、純度が高く幅広い患者に応用可能な治療用細胞が必要であると考えられる。
4. 脱分化脂肪細胞 (DFAT) の発見
 一方で、脂肪組織中の体積の80%を占める成熟脂肪細胞は、内部に脂肪滴と偏在した核を有し、増殖能力を喪失した終末分化細胞であると長年考えられてきた。通常、ヒトを含む哺乳類では分化のプロセスは不可逆的であると捉えられていたため、最終分化した成熟細胞は未分化の状態に戻る能力(=脱分化)はないと考えられていた。
 しかしながら、日本大学では、単離させた成熟脂肪細胞を天井培養法で体外培養することで生じてくる線維芽細胞様の形態をした細胞群が、高い増殖能と MSCs に類似した多分化能を獲得することを明らかにした。
 これは一度終末分化した細胞でも適切な環境下で培養することで、未分化な細胞へと形質転換することを意味してしており、この成熟脂肪細胞由来の多能性細胞は脱分化脂肪細胞 (DFAT : dedifferentiated fat cells) と名付けられた (PCT/JP2004/007322)。
 DFAT ―― 成熟脂肪細胞は、1g の脂肪組織を小片にした後、酵素処理することで単離することができる。さらに、濾過後に遠心分離を行うと間質細胞群はフラスコ底部に沈降するが、比重の小さい成熟脂肪細胞はフラスコ上部に浮遊する。貯留した成熟脂肪細胞を、ウシ胎児血清が添加された培養地で満たしたフラスコ内で天井培養を行うと、脂肪滴を含んだ成熟脂肪細胞は浮遊してフラスコ内部の天井面に付着し、非対称分裂によって線維芽細胞様の形態をした細胞群が産生される。→ (DFAT) である。1週間後に、フラスコを反転して通常の付着培養を行うと、産生された DFAT は高い増殖活性を示してコロニーを形成する。
 産生された DFAT は成熟脂肪マーカーの発現が完全に消失し、成熟脂肪細胞としての機能を喪失する一方で、成熟脂肪細胞には発現しない骨、軟骨、平滑筋の初期マーカーに陽性を示す。
 また、DFAT は MSCs に共通の細胞表面抗原マーカー発現を示し、国際細胞治療学会が定めた MSCs のクライテリアを満たす。DNA マイクロアレイ解析の結果、DFAT は ASCs と99%以上の高い相同性を示すことが明らかとなっている。
 これらの結果は、DFAT が成熟脂肪細胞由来の細胞集団であるにもかかわらず、ASCs に類似した形質を獲得していることを示唆している。DFAT は適切な環境下で分化誘導を行うと、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、筋線維芽細胞、平滑筋細胞や心筋細胞に分化可能であることが報告されていう。




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