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2019年3月31日 (日)

抗血栓療法と歯科外科処置のアップデート ②

   
 

1. 抜歯時の対応

 

 1) ワルファリン服用患者

  代表的な経口抗凝固薬ワルファリン服用患者に対しては、効き過ぎると脳出血や消化管出血のリスクがあり、効果が無いと重篤な脳梗塞などを発症するリスクがあるので、医師はPT-INR 値 (Prothrombin Time-International Normalized Ratio : プロトロンビン時間の国際標準比)の測定によるモニタリングをしながらワルファリン投与量を決定している。

 本邦の循環器疾患に於けるガイドラインでは、原疾患や年齢によるが、PT-INR 値は2.0~3.0 (70歳以上の高齢者では1.6~2.6)にコントロールされている。医師が抜歯時、絶対に抗血栓薬を中断しないでほしいと考える症例があるので認知しておく。

 歯科医師も抜歯を安全に行うためには、術前に PT-INR 値を確認することが必須。普通抜歯の場合、PT-INR 値が 3.0 以下であれば、ワルファリン継続下に抜歯可能である。3.0を超えた場合には、適正なPT-INR 値であるかどうか医師の相談し、ワルファリンの減量を検討してもらう。埋伏歯の抜去は、より慎重な出血管理が必要なため、ワルファリン継続下での抜歯は口腔外科に依頼するのが望ましい。

 なお、ワルファリンは食事や併用薬、基礎疾患の影響を受けるので、PT-INR 値の測定は24時間以内、少なくとも72時間前に、行う。可能なら、抜歯当日に測定するのが望ましい。小型で迅速かつ容易にPT-INR 値を測定できる機器があり、歯科医院でも抜歯当日の PT-INR 測定も可能。

 ワルファリン継続で抜歯を行った場合には、必ず酸化セルロースやゼラチンスポンジなど局所止血剤を抜歯窩に填入し、創縁を縫合するなど確実な局所止血処置を行う事が重要である。

 

 <症例 1> 

 ワルファリン継続下での抜歯症例

  患者は、プロテインS欠損症、深部静脈血栓症、肺塞栓症でワルファリンを服用していた。プロテインS欠損症とは常染色体優性遺伝病で、抗凝固因子のプロテインS が欠損しているために血栓を生じやすく、脳梗塞や肺血栓塞栓症などを起こす疾患である。

  右側下顎智歯周囲炎のため、紹介来院。本症例は血栓ができやすいため医師より絶対にワルファリンは中断しないように指示があり、継続下で抜歯を行った。PT-INR 値は2.0~3.0 にコントロールされていたが、抜歯当日の PT-INR 値は3.2であった。

  抗血栓薬服用患者における下顎孔伝達麻酔は、エビデンスレベルは低いが、手技による出血や血腫を形成し気道閉塞をきたす懸念があるために、ガイドラインでは伝達麻酔をしないことを推奨している。浸潤麻酔後、歯肉を切開し、粘膜骨膜弁を形成、周囲骨の削除を行い除去したが、術中異常出血はなかった。局所止血剤(アテロコラーゲン)挿入、縫合終了時には、完全に止血し、抜歯後出血もなかった。

 

 医師が抜歯時、抗血栓薬を中断するべきではないと考える症例

 ◍ 人工弁置換術後→特に、開発初期の僧房弁の機械人工弁置換術症例では人工弁に血栓がつきやすいため。

 ◍ 心房細動で弁膜症、糖尿病、高血圧の合併症のある患者

 ◍ 心原性脳梗塞症の既往歴の患者→心房細動などの心疾患患者で心臓内に血栓ができ、血栓が剝がれ血流にのって脳動脈に詰まり大梗塞を起こした既往がある場合。中断すると再度、大梗塞を発症するリスクがある。

 ◍ 冠動脈ステント留置直後

 ◍ 抗リン脂質抗体シンドローム

 ◍ 深部静脈血栓症による肺栓塞症(エコノミークラスシンドロームなど)

 ◍ 先天性抗凝固因子欠乏症→アンチトロンビンⅢ、プロテインC、プロテインS の各欠乏症・欠損症

 

 

 

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