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2019年4月10日 (水)

Science 間葉系幹細胞 (MSC) 移植による顎骨再生療法の可能性 ④

続き:

                       

2. 歯科における再生医療

 

 1) これまでの再生医療

  2016年の歯科疾患実態調査によれば、1mm以上の歯周ポケットを有する者割合は60歳以上の成人で60%以上にのぼる。またWHOによれば世界の人口の20%以上が罹患すると報告されている。歯周炎は通常、歯に隣接して形成したバイオフィルムや、歯垢中の病原微生物叢によって炎症性障害を引き起こすため、病原性微生物叢の除去に加え、再生医療による歯周組織の機能的回復が求められている。

  現行の歯周組織再生療法の戦術は、歯根膜に含まれる組織幹細胞の活性化を行うことで、歯周組織再生を達成させることである。2004年に歯根膜 幹細胞が同定され、この細胞がセメント質、歯槽骨、歯根膜を含む歯周組織を再生することが報告された。

 2) 歯周領域における再生療法の現状

  歯周組織領域においては、歯根膜に含まれる組織幹細胞を活性化するための場所の提供や、タンパク質、サイトカインの投与が戦術として取られてきた。1980年時代から研究が進み、臨床応用されてきた歯周組織再生療法の GTR 法は、非吸収膜または吸収膜によって歯肉上皮や結合組織の根尖側への移動を阻止して、歯根膜由来幹細胞が分化誘導できるスペースを確保することによって、失われた歯槽骨、歯根膜、セメント質の新生を促す再生療法である。

  また歯根膜形成時のヘルトビッヒ上皮鞘から分泌されるタンパクによって、セメント質などの歯周支持組織形成に関与するエムドゲインゲルは、ブタ幼若歯胚から抽出精製したエナメルタンパク質を含む歯周組織再生材料である。これらの歯周組織再生療法は、3壁性骨欠損に対して再生効果が報告されており、日常臨床の一手段として深く浸透している。

 

3. 近未来の歯科における再生療法

 

 1) 歯科領域における再生療法の明日

  従来の歯周組織再生療法は、自己再生能に期待した再建であり、失われた顎骨再建をより積極的に行う場合は細胞自身の分化増殖能に期待した細胞療法が必要である。現在では、歯根膜幹細胞移植により歯周組織を治す再生医療技術が開発され、さらに細胞シートと呼ばれる技術で、歯根に広範囲に移植する新規再生医療技術の臨床応用も始まろうとしている。

  一方で、歯根膜中の幹細胞を活性化するサイトカインを局所投与することで、歯周組織の再生を図る治療技術も開発されている。このように、幹細胞移植およびサイトカイン療法により歯周組織の再生療法は可能になりつつある。より広範囲な骨欠損を有する歯を、保存の適応を拡大するために上記の再生療法に加えて、歯根膜由来 MSC や脂肪由来 MSC による歯周組織再生療法が試みられている。

  また保険収載され、臨床ですでに提供が始まっているリグロスは、従来の再生医療よりも予知性高い成長因子を応用した次世代の再生医療として期待されている。

 

  2) サイトカインによる新規再生医療

   日本発世界初の歯周組織再生医薬品として、組換え型ヒト塩基性繊維芽細胞増殖因子 (FGF-2) を主成分としたリグロス(科研製薬)が、2016年に歯肉剥離掻爬術実施時に歯科用薬剤として保険収載された。現在リグロスは臨床の現場で広く認知され、歯槽骨の再生や結合性付着の再構築の有効性、歯肉増殖などの有害事象が発生しないといった安全性が確認されている。

  リグロスはその主成分である FGF-2 の細胞増殖作用、血管新生作用、未分化 MSC の分化能の維持と増殖作用、細胞外マトリックスの産生制御によって微小環境を調製し、歯周組織の再生へと導くと考えられる。

  また2001年から始まった臨床研究によってその安全性と有効性、臨床推奨濃度を決定した。現在、適応症拡大のため、さまざまな研究機関や臨床家によって、他の治療法との併用や粘膜再生、インプラント周囲への適応の検証が慎重に行われている。

 

  3) 細胞移植療法時代の幕開 け

   歯周組織欠損部への細胞移植による再生療法技術の開発は、歯根膜に存在する幹細胞 (PDLSCs) あるいは、MSC を用いた動物実験で応用が試みられてきた。実験例として、ミニブタから採取された PDLSCs を自家移植することで、外科的に形成された歯周組織欠損を再生することが確認された。これらの所見は、PDLSCs を用いた細胞移植医療が、歯周病によって失われた組織再生に有効なことを示唆している。岩田らは歯根膜組織から分離した歯根膜細胞をシート化し、失われた歯周組織部位に移植することで新規性の高い歯周組織再生療法の開発に取り組んだ。

 酵素処理なしに細胞脱着が可能な温度応答性培養皿上で、ヒト歯根膜組織を培養増殖した細胞シートを開発、β-TCP(β-リン酸三カルシウム)のみのコントロールと、β-TCPと歯根膜シートを合せたもので歯周欠損の回復について比較を行った。

 移植結果では、後者でのみ完全に歯周欠損が回復していることが観察された。大型動物モデルにおける歯周組織再生能力が認められたため、2011年~2014年までに患者10症例への臨床研究が終了している。

 hPDL 細胞シートは、特性(アルカリ性ホスファターゼ活性およびペリオスチン発現)を失うことなく悪性化の形質転換の傾向を示さないことから安全性が高い技術であると言える。

 MSC はさまざまな組織から樹立が可能であるが、特に、脂肪組織から採取されるMSC は採種量がが豊富で増殖能、細胞活性が高いため有効な供給源として考えられる。2002年ヒト皮下脂肪に含まれる脂肪部分由来 (PLA : processed lipoaspirate) 細胞が骨、脂肪、筋肉、軟骨に分化することが報告された。

 その後数々の研究者らが脂肪由来 MSC として脂肪組織由来多系統前駆細胞 (ADMPC : adipose tissue-derived multi-lineage progenitor cells) の樹立方法を確立して、その特性解析に取り組んできた。これらの細胞群は成熟脂肪細胞と間質血管細胞から構成されており、脂肪由来幹細胞以外のも脂肪間質細胞、血管内皮細胞、血管壁細胞が含まれることから血管新生効果、組織再生効果が高い。

 脂肪由来MSCは、骨髄由来MSCと類似した優れた多分化能を有し、骨髄由来MSCよりも約10~100倍以上の細胞採取が可能。脂肪由来MSCは、実験動物の歯周病モデルへの自家移植実験にて歯周組織再生能が確認されていることから、同細胞も歯周組織再生療法に有用な細胞製剤として期待されている。

 

 

 

                       

 

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