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2019年4月 3日 (水)

Clinical 抗血栓療法と歯科外科処置のアップデート ⑤

   
 

続き:

 

2. 抜歯以外の歯科外科処置時の対応

 

 抜歯以外の歯科外科手術に関して十分なエビデンスはなく、抗血栓薬を継続可能か否かのガイドラインはない。局所止血で止血可能な処置かどうか、術者の判断が重要である。抗血栓薬を中断すると血栓塞栓症を発症するリスクの高い患者は、継続下での処置がの望ましい。止血困難と判断し、やむを得ず中断が必要な場合は、休薬期間やヘパリン療法への変更が必要がどうかを医師と相談する。

 

1) 顎骨嚢胞摘出術

症例5

 抗血小板薬 2剤併用療法 (DAPT) 患者の顎骨嚢胞摘出術(図:略)

 DAPT (Dual Anti-Platelet Therapy) とは、抗血小板薬 2剤併用療法のことで、狭心症や心筋梗塞などで狭くなった冠動脈の血管を金属のメッシュ状の筒を留置して広げるステント治療後に、ステント内の血栓症予防のために推奨されている。アスピリンとチエノピリジン薬(チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル)を組み合わせた DAPT が標準治療となっている。

 DAPTを1剤で可能にするクロピドグレルとアスピリンの DAPT 用配合剤(コンペラビン)もあるので留意する。 DAPT 患者は抗血栓薬継続下の処置を検討する。

 患者は、狭心症で薬剤溶出性ステント留置後に、バイアスピリンと第3世代のチエノピリジン薬であるプラスグレル(エフィエンド)の2種類の抗血小板薬を服用していた。医師より抗血小板薬継続下での処置を支持された。全身麻酔下に、感染を繰り返していた右側下顎第2大臼歯と埋伏智歯の抜去、嚢胞摘出術を施行したが、術中の異常出血また術後出血もなかった。DAPT 患者の埋伏智歯抜去と顎骨嚢胞摘出術も重篤な出血性合併症はなく、継続下に処置が可能であった。

 

 2) 歯科インプラント埋入手術

症例6

 DOAC 服用患者の歯科インプラント埋入手術(図:略)

  患者は74歳女性で、心房細動、脳梗塞の既往がありワルファリンを内服していた。左側下顎小臼歯の残根、後方大臼歯の欠損を認め、インプラント治療を希望し来院。心房細動で脳梗塞の既往があり血栓塞栓症のリスクが高いために、ワルファリン継続のまま左側下顎第1、第2小臼歯の抜去術を行った。抜歯当日の PT-INR 値は2.15であった。頬側の骨吸収を認めたので骨移植術を施行した。抜歯窩にβ-TCP を填入、吸収性メンブレンを貼付し、骨膜下に減張切開を加え完全閉創とした。

  患者は、抜歯1か月後に下肢血栓性静脈炎を発症し当院心臓血管センターにて鼠径高位結紮術が施行された。その後、抗凝固薬がワルファリンから DOAC のエドキサバン(リクシアナ)へと変更。

  抜歯および骨移植4カ月後、経過良好であったのでエドキサバン継続下にインプラント埋入術を施行した。手術はエドキサバンの血中濃度ピーク時を避け、内服約6時間後PT を測定し、18.7秒と異常高値ではないこと確認し行った。術中異常出血および術後出血は認めなかった。

  エドキサバン継続下に重篤な出血性合併症はなく、インプラント埋入手術が可能であった。抗凝固薬がワルファリンから DOAC に変更されていることもあるので、手術前に再度、抗血栓薬の種類を確認する必要がある。DOAC の場合は、血中濃度のピークを避けて手術を行わなければ出血のリスクがある。

 

  3) 頬部蜂窩織炎の消炎手術

 症例7

切開排膿術(図:略)

  患者は大動脈弁狭窄症で、機械人工弁置換術施行後ワルファリンを服用していた。左側上顎第1大臼歯の激痛、同部の歯肉と頬部腫脹を認め来院した。血液検査で CRP が8 と高かったために緊急入院し、抗菌薬の静脈内投与を開始した(ピペラシリン 4.0g/日とクリンダマイシン 1.2g/日)。

  また、歯肉に波動を触れたため切開排膿術を施行した。処置時の PT-INR 値は2.32であったが、異常出血はなく、ガーゼドレーン挿入時には止血していた。抗菌薬投与を7日間施行し、炎症症状も消退、CRP も正常値となり退院。

 

 4) 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死 (ARONJ) の顎骨切除手術

 症例 8

 DOACを休薬し下顎骨辺縁切除術を施行した ARONJ (図:略)

  患者は、心房細動のため DOAC のアピキサバン(エリキュース)を、また骨粗鬆症のために骨吸収抑制薬(ビスフォスフォネート)を服用していた。下顎前歯部歯肉に瘻孔形成、排膿、X線で骨吸収像を認め紹介来院した。骨吸収抑制薬関連顎骨壊死と診断し、全身麻酔下に下顎骨辺縁切除術を施行した。手術の侵襲度と中等度の出血も予測されたために、医師と相談し、術前日から DOAC を中断した。DOAC は半減期が短いのが利点である。ワルファリンの場合は、術3~5日前からの休薬が必要である。

  止血困難な外科処置で抗血栓薬を中断せざるを得ない場合は、休薬開始期間は抗血栓薬種類によって違うので、必ず医師に相談する。

  中断した場合には、止血確認後速やかに再開する。

 

 

 

   

 

 

 

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