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2019年4月11日 (木)

Science 間葉系幹細胞 (MSC) 移植による顎骨再生療法の可能性 ⑤

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4) 他家由来細胞移植の可能性

 自家由来細胞を用いることによって安全性は確保されると言えるが、その問題点としては細胞の供給源の確保である。顎骨再生であれば、骨髄や脂肪組織、または欠損部位とは異なる顎骨から MSC を採取し、培養を行わなければならない。顎骨を失った多くの患者が高齢者であると想定するのであれば、細胞採取のリスクを伴う。

 このことから、自家由来ではなく、他家由来細胞を利用することを検討するため、マイクロミニブタ由来 ADMPC の顎骨再生の効果を他家、自家移植によって比較検討。その結果、他家移植によっても自家移植と同等のセメント質に埋入したシャーピー線維を伴う歯根膜の再生および顎骨再生効果が観察された。

   ※ 脂肪組織由来他系統前駆細胞 (ADMPC : adipose tissue derived multi-lineage progenitor cells)

 また、他家移植における懸念事項の一つに移植細胞の免疫拒絶の問題が挙げられる。そこで ADMPC の他家移植において、免疫拒絶が起きているかどうかを移植細胞に対する抗体産生の有無を調べると、他家移植で、拒絶反応を起こす程度の抗体はほとんど産生されなかった。このことから自家移植における細胞採取の課題は、他家由来細胞を用いることでクリアされると考えられる。今後は医科領域と同様に、他家移植を前提とした再生医療製品の開発の方向性に進むと予想される。

 

4. 再生医療普及化に向 け取り組むべき課題

 

 MSC による細胞移植を成功に導く「キー」の一つは安全性と抗造腫瘍性の担保である。さらに、移植に用いる細胞の供給源確保は重要な課題の一つと言える。

 MSC 投与時の安全性の関しては、臨床研究のメタ解析においてMSC投与時における一時的な発熱との間には有意な関連があったものの、急性注入毒性や臓器系の合併症、感染症、悪性腫瘍の発生または死亡例との関連性は確認されなかった。さらにレシピエントがドナー細胞を拒絶するケースや、骨髄移植などでドナー側からレシピエントを攻撃する(移植片対宿主病)ケースを想定しなければいけない。

 細胞移植の観点から移植時の出血や感染の防止策として、画像情報を利用した的確な位置への挿入と、最小侵襲と投与方法を考慮した機器の開発が望まれている。

 またiPS細胞やES細胞においては、MSC と比較し、よりハードルの高い安全性が要求される。多分化能は腫瘍化と表裏一体であることから、腫瘍化リスクの克服を目指してゲノム挿入のないintegration-free 細胞の開発や、腫瘍化した場合に備えての自殺遺伝子の導入や免疫抑制剤の中止、抗がん剤の使用を検討しなければいけない。

 自家移植は、自己細胞を用いるため免疫拒絶の問題点を解決できるが、事前に細胞を準備できないため治療タイミングの選択が困難であったり、個別培養のためコスト高による患者負担増の点では解決するべき課題が存在する。一方、他家移植は事前の細胞調整が可能で自家移植に比べてコストがかからない魅力がある。

 しかしながら、培養行程の必要性から培養に関わるコストや、人件費を削減することが当面の課題と言える。2014年、経産省は再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業を実施した。この時の報告書では、細胞の入手・提供を円滑に進めるための社会的認知が十分ではないと結論づけられている。また細胞を提供するドナーや、医療機関と再生医療を手がける企業との間に入る専門仲介機関が必要だと指摘している。

 なお、同意取得がされた法的に問題のない細胞供給システムの構築は急務だ。さらに、再生医療等製品の出荷時には一定基準の品質が求められるため、他家細胞移植のソースとして現時点での国内の安定的に供給できる組織の構築が必須である。セルテクノロジーは廃棄される乳歯や智歯の歯髄をバンク化する事業を開始しており、今後貴重な細胞資源の供給組織として機能することが期待されている。

 また2014年施行された再生医療等安全性確保法は、これまで規制外であった細胞を用いた再生医療を安全かつ迅速に提供できるように実用化を促進する目的の制度だ。本法では、再生医療等技術を人の生命および健康に与える程度に応じて、第一種再生医療等技術(第一種技術:リスクが高いiPS細胞やES細胞由来の細胞加工物を用いることを想定)、第二種再生医療等技術(第二種技術:第一種技術よりもリスクが低いと考えられる脂肪幹細胞などの体制幹細胞を用いる)、第三種再生医療等技術(第三種技術:低リスクのNK細胞を用いた免疫細胞療法や platelet-rich fibrin  (PRP) などの体細胞を加工する)の3つのカテゴリーに分類。

 また、それぞれ特定再生医療等委員会または特定認定再生医療等委員会に申請し、厚生局および厚労大臣へ提供計画を提出し、承認後に提供が開始される。現時点では MSC を用いた再生医療の件数は少ないが、歯科領域では第三種技術に該当する PRP を併用したインプラント治療が数多く実施されている。それゆえ歯科における再生医療実施の下地は十分に醸成しているため、

 本法を深く理解し、必要な手続きに基づいた適正な再生医療が実現できると確信される。このことから、MSC を用いた再生医療が、通常治療の一環として一般歯科開業医においても行なわれる日も近いと想定させる。

 

                       

 

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