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2019年5月26日 (日)

Clinical ~新規医療機器「エピシル口腔用液」を中心に~ ⑤

続き:

 

 

3. その他の治療

 

 がん治療中の粘膜障害に関するガイドラインなどでは、いくつかのエビデンスのある対処法が示されている。本邦で実際に行うことができる対策は以下の通りである。

 

1) 低出力レーザー

 低出力レーザーの持つ疼痛緩和作用、創傷治癒促進作用による粘膜炎の予防、治療を図るもので、メタアナライシスでも低出力レーザーは重度粘膜炎の総合的なリスクを減弱させると報告されている。MASCC/ISOO のガイドラインでは大量化学療法を併用する造血幹細胞移植(全身放射線照射の有無を問わない)を受ける患者に対し、口腔粘膜障害の予防のため、低出力レーザー治療(波長650nm、出力40mW、1cm四方の領域各々を照射エネルギー密度2J/平方cmで治療)を推奨している。また化学療法を併用しない放射線治療を受ける頭頸部がん患者に対し、口腔粘膜障害の予防のため、低出力レーザー治療(波長約632.8nm)を提言している。

 

2) 半夏瀉心湯

 口内炎に用いられる漢方薬はいくつかあるが、その中でも特に半夏瀉心湯はがん患者の粘膜炎の疼痛緩和や治療促進といった臨床上の有効性が知られており、口内炎の保険適用もある漢方薬。基礎研究による科学的根拠の構築も進み、半夏瀉心湯を構成する7つの生薬が口腔粘膜に対し、それぞれ抗炎症、抗菌、組織修復、鎮痛作用といった総合的な作用を有することが明らかにされており、がん化学療法の領域においても、半夏瀉心湯による粘膜炎の治療効果の有効性を示すランダム化比較試験の結果が報告されている。半夏瀉心湯は内服ではなく含嗽でもその効果が得られることが報告されている。

 

3) 亜鉛

 亜鉛の持つ最上皮化促進作用、抗炎症作用、抗菌作用によ創傷治癒の促進により粘膜炎の予防を図るもので、MASCC/ISOO のガイドラインでは放射線治療または化学放射線治療を受ける口腔がん患者に対し、口腔粘膜障害の予防のため、亜鉛サプリメントの経口全身投与の有用性を提言している。

 本邦で用いることが可能な亜鉛含有製剤にはノベルジン錠剤があるが、保険適用の病名が低亜鉛血症であるため、口腔粘膜炎に使用する際には、採血等による低亜鉛血症の確定診断が必要となる。

 

4) その他

 薬物投与中、氷片を含み口腔粘膜を冷却、局所的に血管を収縮させ血流を低下させることで、口腔粘膜組織への薬物移行を低減させ、粘膜炎を予防する方法がある(クライオセラピー)。5-FUの急速静注・大量メルファラン投与(造血幹細胞移植における移植前初治療法)など、短い血中半減期の薬剤を用いた化学療法において複数の対照試験で有効性が報告されている。

 また頭頸部放射線治療の場合は、歯科金属からの散乱線による粘膜炎を予防するために、歯科金属が直接粘膜に触れないようにするマウスピース(スペーサー)の作製が有用で、2018年より正式に保険適用されている。

 

 

まとめ

 

 がんが不治の病ではなく、治癒が得られる病、あるいは長く共存できる病となった今、がんの進行そのものによる心身の苦痛や、がん治療に伴う副作用・合併症や後遺障害(晩期合併症)に対する支援は、がん診療に付随するものではなく、必須のものとなった。

 がん医療の現場において口腔の重要な機能である「おいしく食べる」「他者と円滑に会話しコミュニケーションをとる」を支持することは、がん患者の療養生活を支える大きな柱の一つである。

 エピシル口腔用液は、がん治療に伴う口腔粘膜炎に対する安全で有効性の高い新たな疼痛緩和の手段となる、今までにないコンセプトの医療機器である。医師・歯科医師の指導の下、エピシル口腔用液が適正に使用されるようになれば、がん患者にとって大きな福音になると筆者(上野)は考える。

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