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2019年5月18日 (土)

~ アマゾンのNY進出騒動から読む~ ⑥

続き:

 

   「独り勝ち」 都市の問題

 フロリダは二つの側面から「独り勝ち」都市を論じている。まず、スーパースター都市を巡る都市間関係。アメリカ大陸の東西海岸の、限られた都市が飛躍してパワフルな経済エンジンになった。しかし、それ以外の都市、特に中小都市は革新、成長から取り残され、疲弊し、都市間格差が急拡大する構造が生まれた、というのである。

 東海岸ではボストン、NY、ワシントン、西海岸はシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルスである。

 実際、ブルキングス研究所の調査では、経済危機以降に創出された雇用の72%が人口100万人超の、ハイテク型スーパースター都市圏に集中している。中小規模都市圏は6%未満である。また、東京に一極集中する日本の都市構造に比べ、かねてよりアメリカは「フォーチュン500(トップ企業)」が大陸に広く散在し、多極分散型都市構造をなす、と考えられていた。

 ところが昨今、それがすっかり変容し、過半が上位10都市圏に本社を置いている(PBS News)。いずれの話も、企業行動がスーパースター都市化と伴走していることを示している。

 もう一面の「独り勝ち」問題は、「成功」しているスーパースター都市、それ自体に内在する矛盾である。フロリダは、スーパースター都市では「不平等の拡大、コミュニティの分断、中間階層の解体」が深刻であると指摘し、その状況を縷々描いている。低所得階層や労働者階級の、疲弊し貧しい居住区や住工混在地区に中間階層以上が移り住む。

 高級アパートが建ち、しゃれたカフェやブティックが開店する。そうした「地区の改善」を「ジェントリフィケーション」と呼ぶ。ジェントリフィケーションを誘発し、それを加速する創造階級を呼び込む、それを都市の成長につなげる、そのために都市計画を緩和し「特区」を設定する、都市マーケティングをする―――創造都市政策である。ブルームバーグ市政の「贅沢都市」戦略はその一例である。

 しかし、ジェントリフィケーションは近隣住区で家賃の高騰を引き起こす。それに耐えられない住民や零細商店、町工場は立ち退きを迫られる。しばしばホームレス化する。高給を稼ぐハイテクビジネスエリートが増え、今度はブルーカラーの中間階層も追い出される。そして地区の可視的、建築的、さらに人々のつながり方を含む社会的、文化的な「かたち」が大きく変容する。

 そうした変容をフロリダは「新しい都市危機」と呼び、ごく限られたクリエイティブクラスが独り勝ちし、コミュニティを「植民地化し」「創造都市は不平等社会アメリカの震源になった」と語っている。

 アマゾン進出に対する反対論は、その考え方においてフロリダの転向論に通底する。エピローグでは、創造都市論、そしてその修正は、「K・マルクスの階級論、J・シュペーターの創造的破壊論、J・ジェイコブズの人的資本・都市の中心性説を基礎に考察された」と記述している。

 新著は都市間関係、あるいは創造都市内に増殖する矛盾を「新しい都市危機」と呼び、伝統的に語られてきた「古い都市危機(脱工業化と郊外化による都市の衰退・空洞化)」と峻別した。序章で教授は、前書では不平等、格差、中間階層の解体につながるジェントリフィケーションのマイナスの側面を軽視し、「私は都市の「改善」=ジェントリフィケーションに対して楽観的過ぎた」と自分の反省の弁を述べている。

 しかし、ジェントリフィケーション評価の学術論争は1980年代に遡る。以降、都市研究で重要な位置を占めてきた。したがってフロリダの語る「都市危機」は多くの都市研究者の間で広く共有されており、決して「新しい」危機ではない。

 実際、教授は前書の出版直後から自説を微調整するエッセー風論文を綴っていたし、「R・フロリダ、創造階級論の限界を渋々認める」(J・コトキン2013年)などの指摘もあった。そうだとすれば、新著はこれまでの微調整を「我が変節」として体系的に論じたところに意義があった、と言える。

 一方、日本の創造都市論者は教祖の「転向」を知らず(それならば不勉強)か、無視か、相変わらず2002年段階の創造都市論を復唱している。

 

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