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2019年5月31日 (金)

感染症と人間(2)―③

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 天然由来の抗生物質は少なくとも数千種類あると推測されている。そのうち、現在実用化されているものは約100種類ほどである。 

 抗生物質とは、微生物によって作られる。他細胞の発育又は機能を阻止する物質の総称。他細胞には、当然、病原細菌だけでなく、宿主(ヒト)細胞も含まれる。例えば、抗生物質が病原菌の発育や機能を阻止したとしても、同時にヒト細胞のそれをも阻止したとすれば、その抗生物質の使用は難しい。

 別の言い方をすれば、できる限りヒト細胞を傷害することなく病原細菌だけに作用することができれば、人体にとって副作用が少なく、効果が大きな抗生物質となる。これを「選択毒性」という。

 医療の現場で使用される抗生物質は、なんらかの方法で細胞に選択毒性を有している。

 一方、抗生物質が作用する機序は大きく4つに分けられる。

 第1は、細菌の細胞壁合成を阻害するものである。これはヒト細胞が細胞壁を持たないことによって、選択毒性を発揮する。世界で最初に実用化されたペニシリンや、セフェム系と呼ばれる抗生物質はこれを利用する。一方で、こうした抗生物質は細胞壁を持たない細菌には効果無し。例えば、肺炎を引き起こすマイコプラズマと言う一群の細菌は細胞壁を持たない。

 第2は、細胞膜機能を阻害するもの。細胞膜は細菌の生命維持に必要な物質の透過性を制御しているが、その透過性を選択的に変えることによって細菌を殺す。選択毒性は、細胞膜のリポ多糖の有無によって発揮される。コリスチンやポリミキシンB等がある。特にコリスチンはグラム陰性菌に対する重要な抗生物質で、多剤耐性緑膿菌(著者→山本の祖母の命を奪った耐性菌だ)に対する最終手段ともなっている。今日、コリスチンに対する耐性出現が大きな課題となっている。

 第3には、細菌の核酸合成を阻害することによって効果を発揮する抗生物質。細菌とヒト細胞の増殖速度の違いを利用して選択毒性を発揮する。ニューキノロン系抗生物質がこれに相当する。

 そして第4が、リボゾームに作用し、タンパク質合成を阻害する抗生物質。

 ヒトと細菌のリボゾームの種類が違うことで選択毒性を発揮する。ストレプトマイシンやクロラムフェニコールなどである。抗生物質開発の初期段階で発見されたものも多い。

 因みに細菌は、色素による染色の違いによって、大きく2つに分類される。グラム染色によって紫に染まるグラム陽性菌と、紫には染まらず赤く見えるグラム陰性菌である。1884年に、デンマーク生まれの細菌学者であるハンス・クリスチャン・グラムが開発した。

 染色の違いは、細胞壁の構造の違いに由来。グラム陽性菌は細胞壁を構成するペプチドグリカン層が厚く、一方、グラム陰性菌はペプチドグリカン層が薄い上に外膜を有している。この違いが、抗生物質の選択にも影響する。グラム陽性菌では、細胞壁阻害に働くペニシリン系抗生物質が第1選択薬となるが、グラム陰性菌ではセフェム系抗生物質が第1選択薬として用いられる。

 セフェム系抗生物質は、グラム陰性菌が有する外膜の透過性と透過速度が、ペニシリン系抗生物質に比較して一般的に優れているからである。

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