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2019年6月 7日 (金)

Clinical バイオフィルムを管理→予防歯科 ④

続き:

 

 

7. 歯周病の最新病因論

 

1) 歯周病菌

 1980年代から、歯周病の発症にはPorphyromonas gingivalis をはじめとする一群のグラム陰性嫌気性桿菌が深く関わっていることが示された。

 1990年代後半に、歯周病菌はレッドコンプレックスと呼ばれる3菌種(Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythia、Treponema denticola)であるとされた。

 現在でもレッドコンプレックスは間違いなく強力な歯周病菌であると認識されている。

 21C.になって、Filifactor alocis も歯周病菌の仲間に加えられた。

 

2) 歯周病原性バイオフィルム

 歯周病原性バイオフィルムと健康なバイオフィルムの細菌叢は大きく異なる。歯周病原性バイオフィルム細菌叢はピラミッドに例えられ、歯周病原性の高い細菌種ほど上層に区分されている。

 生後間もなくからの口腔細菌種の定着によりピラミッドが積み上げられ始める。ミュータンスレンサ球菌の口腔内定着は乳歯の萌出とともに開始されるが、歯周病菌の定着はずっと遅い。最も強力な歯周病菌である P.gingivalis は6~18歳以降に定着し、歯周病原性バイオフィルムが完成する。

 幼少期からの長い年月の間に、多様な細菌叢を形成した個人は、しっかりした土台に上層が積み上げられたピラミッドが形成され、歯周病原性の高いバイオフィルムをもつに至る。

 逆に下層の細菌種が乏しく土台が弱い場合には、上層の構築はうまくいかず、歯周病原性に乏しいバイオフィルムになる。実際、下層あるいは中層をもたない上層だけのピラミッド(細菌叢)は存在しないため、歯周病発症は幼少期からのピラミッド形成に左右されることになると考えられる。

 

3) 歯周病原性バイオフィルムのMicrobial shift

(1) 感染から発症へ

   歯周病の発症原因も、Microbial shift によるバイオフィルムと歯周組織の均衡崩壊と考えられている。青年期に歯周病原性の高いピラミッドが完成しても、中年期までは歯周病の発症は少ない。バイオフィルムの病原性と歯周組織の抵抗力の間に均衡が保たれているからである。これは歯周組織が若いこともあるが、大きな理由はバイオフィルムの病原性が低いことである。

   やがて中年期に向かい、歯周組織の微小環境の変化により Microbial shift が起こり、バイオフィルムと歯周組織の均衡が崩れる。この時、歯周病が発症する。

(2) 細菌間相互作用による Microbial shift

   歯肉溝へのバイオフィルム蓄積に伴い、バイオフィルムは経時的に高密度になる。この環境下では、細菌ー細菌間には様々な相互作用が生じる、これらの相互作用は、集落内での栄養や遺伝子のやりとり、優勢菌の移り変わりなどに大きな影響を与える。

   近年注目されているのが、細菌の代謝物質を介した相互作用だ。バイオフィルム細菌の中には、他菌種の産生する中間代謝産物や最終代謝産物を栄養素として利用するものが多く存在する。このような細菌間相互作用により、バイオフィルムの病原性は次第に高くなり、歯周病発症に向かう。

(3) 歯周ポケットからの出血による Microbial shift

   歯周病菌(特に P.gingivalis)には栄養素として鉄分(Fe)が不可欠だ。P.gingivalis は、ヒト血液中の赤血球ヘモグロビンを鉄源として利用。しかし、健康な歯周組織に出血はないため、P.gingivalisは十分な栄養素は得られず、ごく低い病原性しか発揮できない。しかし、歯周組織の炎症が亢進すると、歯肉溝は歯周ポケットへと変化する。歯周ポケットの内面には、歯肉内縁上皮の脱落により潰瘍形成される。潰瘍面からの出血により、血液中のFe とタンパク質を取り込んだ P.gingivalis は病原性を高めるとともに増殖し、バイオフィルムの歯周病原性を大幅に高める。

   歯周病菌と歯周組織の均衡が崩れたこの時が、歯周病が本格化する時である。「歯を磨くと血が出た」というのは歯周炎発症のサインである。

(4) 歯周破壊へのロードマップ

   バイオフィルムにレッドコンプレックスが感染していると、より顕著なバイオフィルムの高病原化が起こる。血液から十分な栄養素を摂取した P.gingivalis の歯周病原性は大いに高まる。そして、P.gingivalis は歯周組織の免疫機構の働きを抑制する。

   そのため、それまで免疫に抑え込まれていた多数の歯周病関連菌まで増殖し、顕著なMicrobial shift が起こり、バイオフィルムの病原性はさらに高くなる。

 

 

 

 

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