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2019年6月26日 (水)

政治のプライバシーとプライバシーの政治 ③

続き:

 

3 「いいね!」の分析

 

 FB=CA事件は、イギリスやアメリカにとどまる問題ではない。ミュンヘン工科大学の研究者が公表した調査結果によれば、ドイツの2017年9月の連邦議会選挙において、反EUを掲げた政党「ドイツのための選択肢」が選挙前からの1年を通して FB で最も多くの「いいね!」、コメント、そしてシェアを記録し、連邦議会で初めて議席を獲得したのみならず、野党第1党にもなった。

 この選挙結果は、SNS 上の行動と選挙結果の一定の相関関係が証明され、FB の投稿や広告が投票行動に影響を及ぼしうる実例であると理解することができる。

 FB=CA 事件は、遡れば2015/12/11、のガーディアン紙による2016年アメリカ大統領選挙に向けた共和党立候補者の選挙活動に関する報道が発端であった。ケンブリッジアナリティカが FB で「いいね!」を押したページ等の個人データをもとに利用者の投票心理をプロファイルし、それをもとにテッド・クルーズ陣営が選挙活動を行っている、というものであった。

 ケンブリッジアナリティカ社はその後も、ドナルド・トランプを大統領選挙で勝利させるため、グーグル検索結果においてトランプ陣営に有利な広告を配信するなどデータ駆動型選挙活動を行ってきた。

 管見の限り、ソーシャルメディアの広告と投票行動のとの相関関係については必ずしも確たる証明がなされているわけではない。しかし、ソーシャルメディアが投票行動や政治のモビライゼーションになんらの影響を及ぼさないと結論づける客観的な証明も、同時に存在しない。

 一人の FB における平均68個の「いいね!」の履歴から、白人か黒人であるかは95%、性別は93%、ゲイであるか否かは88%の確率で予測することができる。独身か既婚か、喫煙の有無、飲酒の有無、宗派(キリスト教かイスラーム教か)といったことまで予測可能だ。そして、その個人がアメリカの民主党支持か共和党支持かについて85%の確率で予測できるとの結果が示された。

 一連の経緯を暴露した2016/12/03、の記事によれば、'OCEAN' と呼ばれる心理学における古典的な5項目――公開性(Openness)、誠実性(Conscientiousness)、外向性(Extroversion)、協調性(Agreeableness)、神経症傾向(Neuroticism)――から性格診断するという手法を用いて、個人の属性が予測されるに至った。

 「いいね!」の履歴と個人の支持政党との関係が、85%の確率で的中するのであれば、このデータが選挙運動に利用されるのは極めて自然である。この性格診断テストから得られた情報を細分化し、投票者の住所・居住地区の情報と組み合わせて選挙活動に利用された。

 イギリスのEU離脱派の政治団体を率いた一人であるアーロン・バンクスが「AIが離脱を成功させた」と公言した背景には、データを駆使して投票行動を操作した自信の表れもあろう。

 しかし、投票行動のデータ分析がブレグジットの国民投票の結果をもたらしたとする確たる証拠が認定されることはなく、ケンブリッジアナリティカ社は倒産してしまった。このように、FB=CA事件は、依然として解明されていない部分があるとしても、FB の「いいね!」等から導かれた投票行動の予測とそれにつけこんだ選挙活動が展開されたものと理解されてきたのである。

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