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2019年6月29日 (土)

政治のプライバシーとプライバシーの政治 ⑥

続き:

 

6 FB=CA 事件の教訓

 

 本稿のタイトルは、カナダのコリン・ベネット教授の2013年の論稿「プライバシーの政治と政治のプライバシー」に宮下(著者)は、題した。ベネット教授はすでに2013年の時点で、投票行動におけるデータ監視が静かに進行していたことを明らかにし、このことが民主制への信頼の低下を招きつつあることを指摘した。FB=CA 事件は、この指摘を明るみに出し、プライバシー保護と民主主義との関係について次の教訓を示したと考えられる。

 それは、個人のプライバシーの保護は健全な民主主義の不可欠な要素をなしている、ということである。選挙における自由な情報流通は、個人のプライバシー保護が無ければ健全に発展しない。

 FB=CA 事件においてみられたとおり、個人データが適切に保護されなければ、ターゲットにされた個人には一定の情報が遮断され、当該個人が欲すると推測される情報のみが伝達されることになる。その個人と主義主張を共有するデジタル空間の人々と同調し、異なる主義主張を排除する。主義主張を共有する集団の極性化が起こり、共同体を分断させるというデジタル空間がもたらした民主主義への負の側面を反映している。個人データが適切に保護されれば、パーソナライズされた特定の政治性メッセージのみを受け取るという言論の規格化を防止することができる。

 日本では、2013年の公職選挙法改正により、インターネットを利用した選挙運動を行うことが認められるようになった。候補者が広く政策を訴える手段としてSNSを用いることは有権者にとってもより手軽に各候補者の情報にアクセスできることから民主主義の活性化策として歓迎されることだ。

 しかし、日本の選挙活動において一定の有料ネット広告の規制を除いて、マイクロターゲティング規制は存在しない。マイクロターゲティングは、比較的安価でデータ分析に時間の制限は無く、各選挙区の投票者行動を予測し、絞り込むことを可能とした。FB=CA 事件は、マイクロターゲティングを用いて個々の投票者の行動をプロファイリングし、特定の有権者のみをターゲットにしてパーソナライズされた広告の配信は、実質的に「オンライン戸別訪問」と言って大きな誤りは無いと思われる。

 誰が住んでいるかもいるかも支持政党も知らない「家」に一軒ずつ個別訪問することは公職選挙法で禁止されている。しかし、「いいね!」等の履歴から支持政党が高度な確率で推知される「個人」にターゲットを絞り、個別の広告をSNS を通じて配信する、候補者の訴えかけの手法としてはより巧妙かつ効果的なマイクロターゲティングについて、現在の公職選挙法には規制が存在無し。

 さらに、日本の個人情報保護法制は、政治団体による政治活動とこれに付随する活動の用に供する目的で個人情報を取り扱いう場合、適用除外となり、個人情報保護法の規律が及ばない(76条1項5号)。そして、仮に違法な個人情報の取り扱いが行われたとしても、個人情報保護法の法執行を担う個人情報保護委員会の権限は行使しないものとされている(第43条2項)。

 しかし、日本国憲法第15条において投票の自由と秘密が保障されているとおり、「何人が何人に投票したかの審理をすることは許されない」(最大判昭和24年4月6日)。我が国の民主主義が個人データを食い物にするデータ分析によって歪められる前に公職選挙法や個人情報保護法における所要の防御策の検討が必要である。

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