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2019年6月11日 (火)

グローバル化するロビイング

続き:著者―内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表)さんの文をこぴー・ぺー:

 

 グローバル化によって、大企業の動きは国籍を越え多様化している。日本に外資系ロビイ企業が増えているのも、基本的にはこうした情勢の変化を反映してのことだ。

 ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲンは、EU本部のあるブリュッセルにロビイストを多数送り込み、排ガス規制厳格化の動きを緩和しようと水面下で働きかけてきた。ここにフランス、日本、米国の各メーカーも参加している。

 他にも有害な化学品や農薬規制、金融規制等、グローバル企業が共通の利害を持つ課題は多くある。その意味で、「日本対米国」という単純な構図や、「日本が外資に奪われる」という一面的な見方では、国境と国籍を越えて動く企業ロビイストの動きを的確に見極め、対応することはできない。

 国際市民社会は、「グローバル企業 対 人々」という前提の下、環境や暮らしを守るための規制強化やルールづくりを求めるべきだろう。実際、多くの国で、市民組織は企業ロビイストの行動を可視化し、適正化するために闘っている。具体的には以下のような取り組みである。

①ロビイ活動の規制

 米国では、官民の腐敗を防止し、圧力団体の活動の透明性を高めるため、1946年に連邦ロビイング規制法が制定。この法律は、ロビイストに連邦議会への登録と四半期ごとの収支報告の提出を求めた。その後、1995年に同法律に代わる法律として、「ロビイ活動開示法」(Lobbying Disclosure Act) が成立。この法の下、連邦レベルのロビイストは下院書記官及び上院事務局長に対し登録を行わなければならず、違反者には最高5万ドルの罰金が科される。

 ロビイストが行うべき報告内容には、クライアントの名前やどのような課題に従事したか、その費用、さらには国会議員等と約束した日時や手段(tel、メール等)までも含まれている。報告内容はすべてオンラインで自由に閲覧できる。

 勿論こうした規制法は万能では無く、抜け道はいくらでもある。市民社会やロビイスト自身の間でも、規制法のあり方をめぐって議 論が常になされているところだ。

 EUには、欧州議会と欧州委員会が管理するロビイスト登録制度「透明性登録簿」がある。しかし登録は任意であるため、企業は社名を公表せずロビイ活動をすることが可能だ。これについては市民社会からの批判も多くあるため、欧州委員会はロビイストの登録義務化を提案し、2016年3月~6月にはパブリック・コンサルテーション(公聴会)も行なわれた。義務化はまだされていないが、こうした改善を求めて市民社会はロビイストへの監視を怠らない。

②企業ロビイの実態調査を可視化

 米国最大のNGOの1つ、パブリック・シチズンは、2005年7月、『議会からKストリートへの旅路』 ("The Journey from Congress to K Streer") と題するレポートを発表。これはロビイ活動開示法と外国代理人登録法の下で提出された膨大なロビイスト登録文書を分析したもので、米国における「回転ドア」の実態を克明に伝え、社会に問題提起している。

 EU諸国には企業ロビイの監視を専門とするNGOやキャンペーンが複数存在する。「ロビイ活動の透明性と倫理的な規制のためのアライアンス(ALTER-EU)」は、欧州各地から200団体以上の市民団体や労働組合が参加するネットワークだ。このネットワークは、例えば、「回転ドア・ウォッチ」という調査活動を行い、企業と欧州機関の人事異動の際の氏名や所属等の詳細を常にウェブサイトに公開する他、ロビイスト企業の研究や財務情報の公開も行なっている。

 重要点は、これらの調査NGOのほとんどが、企業や政府の資金に頼らず、市民の寄付などによって独立した立場を維持している点である。市民社会全体に、「企業ロビイの問題」が1つの大きな課題として広く共有されていなければ、こうした調査やキャンペーンも実現し得ない。

 メディアの役割も大きい。2006年、ドイツの第1公共TV放送の調査報道番組「モニター」は、「官民の人事交流」の名の下に、ドイツの連邦・州の省庁、欧州連合(EU)の行政機関に大企業が社員を期限付き公務員として多数送り込んでいる実態を暴露した。彼らは所属する企業から報酬をもらい続け、法案策定にも関与していた疑いが指摘された。

 電力市場の自由化、金融規制や公共サービスの民営化(PFI)などの多くの分野にその影響は出ていたという。これをきっかけにロビイストへの批判が高まり、ドイツ連邦会計検査院は連邦各省庁に派遣公務員の情報開示を命じ、連邦政府は派遣公務員採用に関する規則を制定するに至ったのだ(本田宏「官民癒着の新たな形態」北海道新聞夕刊2019/03/11より)。

③市民社会の関与を高めるための諸制度づくりや運動

 市民社会組織も、広い意味でロビイ団体である。EUではNGOや労働組合など市民社会組織も、EUのロビイスト登録制度に登録し、政治家や官僚にロビイ活動を行っている。同時に、欧州機関の専門家グループに市民社会のメンバーをもっと増やすように求めている。適切な法規制によって、企業側に傾き過ぎている意思決定のバランスを、市民社会の側に引き寄せようとしているのだ。

 日本には欧米と同様のロビイスト登録制度や規制法はない。また企業のロビイ活動の監視と規制を求める活動を専門的に行う市民団体はまだ存在しない。しかし日本の企業ロビイの変化を考えた時、法規制も含めた措置が必要となるだろう。

 企業や労働組合、NGOなどすべての主体は、自らの求める政策の実現のため立案者に働きかける権利を有している。従って、ロビイ活動そのものは禁止できないし、過剰に制限すれば市民社会自らの活動を制約することにもつながってしまう。この点は我々の側も留意しなければならないだろう。

 

 いつの時代も、法案や政策は官僚や議員が無菌室でつくるわけではない。そのプロセスには企業はじめ様々な主体からの要望や圧力がかかるものだ。企業ロビイの形は実に多様で、一つの政策にどの程度企業の要求が反映されたかは、常にグレーゾーンがあり、厳密に把握することがほぼ不可能だ。

 だからこそ、見えないものを見えるようにする努力こそが重要だ。もし、我々がそのことを無関心になってしまえば、公共政策に市民社会が参加するスペースは今以上に狭められ、気づいた時には政策や政治に関与していく手段さえも失いかねない。公共政策は、一部の企業や利益団体のためのものでは無く、我々市民一人ひとりの暮らしと権利を保障し前進させるために存在しているのだから。

 

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