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2019年7月10日 (水)

感染症と人間 (3)―①

「人間と科学」 第301回 著者 山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所 環境医学部門国際保健学分野教授)さんの研究文を載せる。コピー・ペー:

 

ポスト抗生物質時代 (1)

 抗生物質は基本的には、ウイルスには効かない。理由は、ウイルスが生物と無生物のあいだをさまよう存在で、単純化して言えば、抗生物質の標的となる細胞壁や細胞膜を欠くからである。

 しかしそうした事実さえ知らない人も多い。2016年に行われた、13万人を対象とした意識調査では、40%以上の人が、インフルエンザなどのウイルス性の急性上気道炎に抗生物質が効かないことを知らないと回答した。

 

 ゲーム理論に「進化的に安定な戦略」といった概念を持ち込み、20c.の生物学に大きな影響を与えた、イギリスの生物学者ジョン・メイナード=スミスは、2001年の京都賞基礎科学部門受賞の際に行われた九州大学(当時) 巌佐庸教授とのインタビューの中で抗生物質の過剰使用による耐性菌の出現に、下のような警告を鳴らしている。因みに、磐佐教授は、日本の数理生物学の第一人者だ。

 「イギリスでは、普通のかぜに対しても医師たちが抗生物質を処方する。普通の風邪はウイルスによって起こる。抗生物質は何の役にも立たないにもかかわらず、である。医師はこのことを知っている。しかし、患者が欲しがるからという理由だけで、抗生物質を処方している。これも間違った行為だ」

 その間違った行為は耐性菌というかたちで、わたしたちの前に現れる。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌やバンコマイシン耐性腸球菌であり、多剤耐性緑膿菌だ。それらはさらに多くの命を奪い続けている。

 因みに、メイナード=スミスは、同じインタビューの中で以下のようにも言う。

 「わたしが生きている間だけでも、抗生物質の登場によって、細菌が大きな変化を遂げた。50年前には、有効だったペニシリンまどの抗生物質がそれに対する耐性菌の出現によって、効かなくなってしまった……中略……これまでの抗生物質の使い方は、犯罪的でさえあった。イギリスは現在も、家畜の飼料に大量の抗生物質を使っている。これは短期的に家畜生産の生産性を高める。しかし細菌の自然淘汰を促す行為でもある。こういったことはすべきではない」

 彼の言いたかったことは、進化生物者の立場から見れば、現在の状況は細菌が薬剤耐性を獲得するための環境作りをしているようなものだ、ということに他ならない。

 因みに、「進化的に安定な戦略」とは、どのような生存戦略が生き残りやすいか、生物はもっとも生き残りやすい戦略に安定的に収斂するというものである。一般論で言えば、敵対より友好が効果的である場合が多い。

 例えば、短期的に最も有効な戦略は、敵対的タカ派戦略個体に対してはタカ派戦略を、友好的ハト派戦略個体ににはハト派戦略を選択することである。

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