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2019年7月23日 (火)

Science 免疫チェックポイント阻害剤 オプジーボ開発の出発点 ③

続き:

 

4. PD- 1 の発見

 

 programmed cell death の特徴の一つに、染色体 DNA が断片化されるという現象がある。ある種の培養細胞に刺激を与えると、この現象を実験 的に再現することが出来る。石田先生はこの方法に着目して、刺激を与えたものと与えていない細胞との間で発現の異なる遺伝子をサブトラクションという方法により網羅的に解析した。サブトラクションとは”引き算”という意味。

 培養細胞に刺激を与えた時に発現されるメッセンジャー RNA (+ mRNA )と与えない時の ー mRNA の間で異なる mRNA を抽出し、その性質を検索するものである。その結果得られた遺伝子がほかならぬ PD- 1 であり、この分子こそが免疫チェックポイント療法開発の出発点となった。

 こうして石田先生は、ついに研究目標達成のためのスタートポイントに立った。2018年1月に開催された本庶研同窓会で、「これまで数多くの大学院生を受け入れてきたが、その中でたった一人明確な目標を掲げていたのは石田君のみであった」と本庶先生が述懐された。石田先生の優秀さを物語るとともに、研究で最も大事なことは、目標を明確に定めることなのだと改めて思い知らされるエピソードである。

 

5. PD- 1 の機能解析

 

 PD- 1 の発見後、様々な方法によりこの分子の Tリンパ球選択への関与について石田先生と縣先生は精力的にそれこそ寝る暇も無いほどに研究に没頭した。しかし、この分子が本用に計画的細胞死に関与しているのかという点についての検証はなかなか進まず、その本来の機能が明らかになることはなかった。やがてPD- 1 の機能解明を待たずに、石田先生は米国へ留学することとなってしまったのである。筆者(浅野)が本庶研に派遣された本来の目的はトランスジェニックマウスの作製技術を習得することであったが、PD- 1 遺伝子の発見とその機能解析のために「PD- 1 トランスジェニックマウスを作ってみなさい」と本庶先生にご指示をいただき、最終的に、このトランスジェニックマウスの作製は成功した。しかし、その解析は筆者(浅野)が本庶研を離れた後、他の研究者によって担われることとなった。

 このような状況の中、本庶先生だけは「PD- 1 には何らかの機能があるに違いない」との信念を貫き通し、PD- 1 に関する研究を継続されたのである。

 トランスジェニックマウスはある種の遺伝子を過剰に発現するマウスであるが、遺伝子工学技術の発展により、これとは対照的に、ある種の遺伝子を欠損したマウス(ノックアウトマウス)の作出が可能となった。この技術を利用して PD- 1 ノックアウトマウスの作製に着手したのが、西村泰行先生(現・滋賀県立成人病センター研究所)と、当時、京都大学医学部免疫学講座の湊長博教授であった。「PD- 1 遺伝子を欠損したマウスのでは何らかの病気が発症するに違いない」との予測によるものだが、マウスには様々な系統が存在し、病気を発症するマウスの系統を確立するには、来る日も来る日もマウスの交配を続ける必要があった。実験動物としてのマウスは、いわゆるハツカネズミである。これは妊娠期間が20日であることから名前だが、マウスの交配を繰り返すことによって病気を発症する系統を確立するためには、この20日を何度も繰り返し試さなくてはならないということである。しかも、実験は成功することが保証されているわけでもなく、手探り状態であった。

 そしてこの弛まぬ努力がついに実り、ある系統のマウスで、糸球体腎炎や関節炎を発症するマウスを作ることに成功した。PD- 1 がないことによりこれらの疾患の発症に至ったのだから、この研究結果はすなわち、PD- 1 がこれらの疾患の発症を抑制している可能性を示唆するものだったのである。

 

 

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