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2019年7月12日 (金)

感染症と人間 (3)―③

「ポスト抗生物質時代 (1)」 続き:

 

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 進化の安定戦略が教えてくれるもう一つの重要なことがある。

 メイナードースミスが、この理論を発表したのは1973年だった。それ以前の動物進化に関しては、オーストラリアの動物行動学者のコンラート・ローレンツの学説が主流だった。ローレンツは、生物は種を保存するために生きていると唱えた。ローレンツが、生物の基本を種に置いたのに対して、個体に置いたのがメイナード=スミスであった。

 進化は、自然淘汰によってもたらされる。環境により適応した個体がより多くの子孫を残すことによって、変異が固定され進化が駆動される。あくまで個が主体であって、種が存続するように進化が起きることはない。その意味では、メイナード=スミスの見解が正しい。

 メイナード=スミスは、個は個々の有利、不利に沿って、利己的に振る舞う。ただしその有利、不利は、相手や周辺の環境によって異なると考えた。ゆえに、個体の振る舞いそのものは多様なものとなる。それはまるでゲームをしているかのようであり、そこでは、競争より協調(お互い相手をいたわる行為)が最終的に、多くの子孫を残すといった意味で、進化的に優位な選択となる可能性があると。

 別の言葉で言えば、個体が利己的に行動するがゆえに、個々が環境適応に模索し、その結果、個体間、あるいは個体と宿主の間にはある種の安定で平和的な共存状態が達成できると、メイナード=スミスは考えたのである。この理論を宿主に常在する微生物と宿主である人間に当てはめれば、そこには自ずと協力的な関係が構築されるべきであることが演繹される。

 我々の身体には多くの細菌が常在している。その多くは病原性をもたない。もたないどころか、我々の生存に欠かせない役割を演じている可能性さえ強く示唆されはじめている。それは、細菌と宿主が長い進化的時間をかけて築き上げた関係である。それが、抗生物質によって撹乱されるとすれば、如何だろう。――次回以降の主題となる。

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