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2019年7月11日 (木)

感染症と人間 (3)―②

「ポスト抗生物質時代 (1) 続き:

 簡単に言えば、相手が友好的なら協力するが、敵対的ならやり返す、ただし、やられた以上にはやり返さない。そうした戦略を長く採用していけば、やがて、ハト派はタカ派に比較して多数派となる。割合は、敵対がどれほど敵対的で、協力がどれほど協力的かによって決定する。これがメイナード=スミスのいう「進化的に安定な戦略」である。そうした意味で言えば、細菌にとって敵対的に働く抗生物質の過剰使用(「タカ」戦略)は、細菌を我々人類にとってより敵対的にするという意味で、最悪の選択ということになる。それなのに、我々はその過剰使用をいまだ止められないでいる。

                    ※

 興味深いエピソード1つ紹介したい。山本たちの研究室で行った実験結果である。研究室では、パラフィンに埋包された結核患者の病変から結核菌の遺伝子を抽出し、その解析を行っている。パラフィン埋包された標本には、抗生物質が使用される以前の第一次世界大戦中や以前のもの、あるいは戦後すぐのものもある。

 そうした標本の結核菌遺伝子を解析して分かったことのひとつに、のちに問題となる抗生物質耐性遺伝子が、ごく少数ながら、抗生物質の登場以前の時点で既に、存在していたということがある。抗生物質が自然からの贈り物だとして、自然は、すでにその時点で抗生物質に対する耐性遺伝子も用意していたということになる。

 抗生物質の使用が、耐性菌を作り出したのでは無い。その使用が、耐性菌を表舞台へと押し出したといえる。生物が、協調と競争のなかで均衡を見出し共進化していく存在だとすれば当然といえる結果だ。目に見えない細菌世界での進化競争は、人類が魔法の弾丸を手に入れた時からすでに始まっていた。

 にもかかわらず、その本当の意味を知らなかったのは我々人間だけだったのかも。

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