« 「トランプ・ドクトリン」はあるのか ④ | トップページ | Clinical 「超高齢社会を支える義歯治療」 ① »

2019年8月11日 (日)

「トランプ・ドクトリン」はあるのか ⑤

続き:

 

 だが、「トランプ・ドクトリン」とはそれだけのことなのか。手掛かりとなるのが、トランプ政権の国務省政策立案局長カイロン・スキナーが、この4月末にオバマ政権で同局長を務めたアンマリー・スローター現プリンストン大学教授との対談で示した見取り図だ。アフリカ系女性でハーバート大学で政治学博士号を得たスキナーは、昨年秋にカーネギー・メロン大学教授から現職に転じた。トランプと「波長の合う」ことで知られている。

 そのスキナーは、トランプの「衝動や直感」を仮説的に整理してみれば、「トランプ・ドクトリン」の思想構造が見えてくるという。それは「四つの柱」からなるとスキナーは説明した。①国家主権、②互恵主義、③負担の分かち合い、④地域連携――が、その四つの柱だという。

 トランプの意味の無い衝動的行為に美名を与えるだけだと左派から批判も出たがそのように片付けてしまっては、この政権を理解することを放棄するだけだ。

 スキナーの解説をふまえて考えると、①は「アメリカ・ファースト」政策のことであり、何よりも自国の利益が優先で、国際的制度の利益などは後回しにすることだ。さらにその裏に、国民国家最優先、グローバリゼーション否定の姿勢がのぞいている。

 ②は、通商問題で言えば「自由貿易よりも公正貿易」であり、その場合の公正とは端的に貿易赤字解消策を求めることだ。③はバードンシェアリングで、スキナーによると、「もはや米国は世界全体に対して(安全保障の)責任を負うことはできない。ただし、同盟国や準同盟国には、拡大核抑止も通常兵力による抑止も提供する」。

 ④は、これまで米国が参加してきた地域連携を見直し、残り続けるべき連携と新たに結ぶ連携を考えていくことだ、とスキナーは説明している。

 四つの柱とは別に、スキナーは包括的な対中国政策を打ち立てる必要性も強調した。歴史、思想、文化において深く究めた上で、冷戦期に初代政策立案局長を務めたジョージ・ケナンが対ソ連封じ込め政策を打ち立てたような作業が中国に対して必要であり、現に進めているという。中国は米国が直面する初めての「白人の国ではない大国の競争相手」とのスキナーの発言は、人種差別的と主要なメディアに批判を受けることになったが、この言葉はトランプ政権全体が中国に対して抱く「異質」感、あるいは一種の文明衝突観を示している。

 トランプ政権にとって「本丸」はロシアではなく、中国なのだ。それは、昨年10月のペンス副大統領の対中国政策演説などからも明らかだ。スキナーは触れていないが、「トランプ・ドクトリン」を考えるとき、白人労働者階級の不安や不満への対応という内政的(選挙対策的)要素を考えざるを得ない。トランプは2016年大統領選挙では中西部ラストベルトで彼らの投票を得て、ぎりぎり当選を果たしたからだ。

 初めに言及した FOX ニュースのタッカー・カールソンは、今年1月の番組で市場経済(その帰結としてのグローバリゼーション)が労働者階級の経済生活だけでなく、「家族」を破壊していると論じ、それを承知で放置しているグローバル・エリートを激しく論難する演説を長々と行って、保守の論壇に大きな波紋を広げてしまったのだ。

 エリートが労働者を踏み台にして利益を守ろうとするような戦争には強く反対しており、それがトランプのイラン攻撃中止に大きな影響を与えたと見られている。

 カールソンの周りではいま、保守系論壇人が集結して反市場経済、反グローバル・エリートの新しい「国民保守主義(ナショナル・コンサーバティズム)」の運動を起こそうという大きな動きが起きている。これも、トランプ外交を動かすドクトリンの一部となる可能性がある。

« 「トランプ・ドクトリン」はあるのか ④ | トップページ | Clinical 「超高齢社会を支える義歯治療」 ① »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事