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2019年8月28日 (水)

「快適で安全」な監視社会 ④

続き:

 

すべての消費者はプロファイリングされている

 次に、人工知能(AI)やビッグデータ分析技術を用いた「プロファイリング」について取り上げたい。

 プロファイリングとは、大略、「ある人物について、既知の情報からその人物の未知な情報を推定したり、将来の行動やリスクを予測すること」である。例えば、ある人の購買履歴から、その人の収入・趣味・購買傾向・人種・宗教・持病等を推測することなどはその典型的例である。

 プロファイリングについては、EUの新たな個人データ保護規制(GDPR)でも規定されており、それによると、「自然人と関連する一定の個人的側面を評価するための、特に、当該自然人の業務遂行能力、経済状態、健康、個人的嗜好、興味関心、信頼性、行動、位置および移動に関する側面を分析又は予測するための、個人データの利用によって構成される、あらゆる形式の、個人データの自動的な取扱い」(個人情報保護委員会の仮日本語訳)を意味する。あるいは、米国政府のビッグデータ報告書では、「小さなデータを寄せ集めて、個人のプロファイルを作り上げ、その個人の好みや行動を予測する」ことと説明している。

 プロファイリングの事例としては、前述のニュースサイト等のパーソナライゼーション、ショッピングサイトでのレコメンデーションのほか、利用者のネット上での行動履歴にもとづくターゲティング広告などが挙げられる。これらの利用者の欲しい情報や関連性の高い情報だけを取捨選択して提示するという点で、利用者の手間を省き、「利便性」の向上に大きく役立つ技術である。その反面、プロファイリングに対しては、個人のプライバシーや自律性といった観点からいくつかの課題が指摘される。

 まず、プロファイリングによって本人の望まないデータまで推測される可能性がある。ビッグデータやAIによって推測精度が上がることにより、プロファイリングで推測したデータは限りなく当人の個人データと同等なものになる。これにより、本人から直接取得できないデータ、本人が開示したくない属性・趣味・健康状態・年収といったセンシティブなデータについても、「個人データの取得」と実質的に同等な推測が可能になってしまう。

 著名な例としては、米国のスーパーマーケットが、ある十代女性の購買履歴から「妊娠している可能性が高い」とプロファイリングし、自宅に(家族がその事実を知る前に)妊娠に関連する広告が送られてしまった事例がある。また、ケンブリッジ大学の研究によれば、フェイスブックの「いいね!」の履歴と他の情報を組合わせることで、男性利用者の性的指向の88%、利用者の民族的素性の95%、利用者がキリスト教徒かイスラム教徒かの82%を正確に推測することができたという。

 他にも、プロファイリングは本人の自律性を侵害する(自律的な意思決定を妨げる)可能性がある。たとえばターゲティング広告やパーソナライズされたウェブコンテンツは、いわゆる「フィルターバブル」を生み出す恐れがある。フィルターバブルとは、ネット空間において個人の好みに合わない情報がフィルタリングによって排除されることにより、利用者が自らの好みに合った情報のみに「泡」のように取り囲まれることを指す。

 単に自分の好きな情報に囲まれるだけであれば弊害は少なそうに見えるが、操作された情報が個人の意思決定に影響を及ぼし、ひいては民主主義のあり方にまで影響を及ぼすとなれば、これは話は別。

 2016年の米国大統領選挙でトランプ陣営は、データ分析会社による有権者のプロファイリングに基づき、個々の有権者の心理学的属性等に合せたマイクロターゲティング広告(個別広告)を特定の地域でテレビや電子メール、SNSを通じて投入した。この大規模な政治広告によって、投票行動の誘導が行われ、選挙結果がトランプに有利に働いたとも言われている。

 とはいえ、これらの課題に対しては、個人への透明性を向上させるという観点から対処することは可能である。そもそも本人が知らないところでセンシティブなデータの推測(プロファイリング)が行われているとするならば、そのような個人データの取扱いは透明性に欠けたものだ。

 プロファイリングによって通常の個人データから要配慮個人情報や、本人が知られたくないような情報(年収・嗜好・健康状態等)を推測しようとする事業者は、自主的な取り組みとして、プライバシーポリシー等においてその旨と利用目的を消費者にしっかり告知することが重要なはずである。

 また、ウェブ上でコンテンツのパーソナライゼーションを行う事業者は、自主規制として、自らのサイトで表示される記事や検索結果に個人差や偏りがあるという事実を消費者に対して積極的に開示したり、表示結果を「ニュートラル」なものにしたりするための設定方法を説明することが求められるだろう。

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