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2019年8月13日 (火)

Clinical 「超高齢社会を支える義歯治療」 ②

続き:

 

4. 下顎の印象について

 

1) レトロモラーパッド(臼後隆起)部

 レトロモラーパッドを印象域に含めるということは維持、支持、安定を確保する上で絶対に必要なこと。特に顎堤の吸収が著しい場合には必須だ。顎堤吸収が進行すると義歯は前後的にスイングするようになる。この動きを止めるためにはレトロモラーパッド部をしっかり覆うことが必要。レトロモラーパッドの手前までしか義歯床のないケースでは、パッドの手前が著しく吸収してしまっている場合が多い。

 下顎骨は、左右関節頭を結ぶ U 字形の基幹骨に咬筋・内側翼突筋が付着して発生する下顎角部、側頭筋が付着する筋突起、歯が萌出することによって発生する歯槽部からなる。レトロモラーパッドはこの基幹骨に属するため、歯を失っても吸収されにくい。したがって、この部まで義歯の床縁を伸ばすことは支持能力を高めるうえでも合理的だ。

 精密印象採得時には、この部をトレーが半分以上覆っているかどうかを確認する。パッドが分かりにくい症例もあるが、頬棚部の粘膜翻転部や顎舌骨筋線の走行を確認して判断していただきたい。レトロモラーパッドの頬側に小帯になっている場合があるが、その前方に続く咬筋切痕部とともに注意していただきたい。

 

2) バッカルシェルフ (頬棚)

 頬棚は頬筋の下方筋束が付着する所で、頬筋の付着が顎堤頂付近にまで及んでいる場合が多い。この部の頬筋の走行は床縁の経過に平行で、床縁にはさほど大きな力を及ぼさないため、その付着部位を超えて延長できる。従って、咬合力を支える部分であると説明されることが多いが、頬棚の下には薄い筋束があることを意識しなければならない。しばしばこの付着部位の筋束が厚い場合や付着の様相が異なっている場合がある。

 咬合圧を支えてくれる重要な部分であり、広く粘膜に密着して採りたいところではあるが、開口時あるいは口腔機能時に頬粘膜から受ける力はその様相によって様々であるので、かならずこの観点を持って確認していただきたい。ただ、とにかく延長すればよいというものではなく、時に頬筋付近の破格があり、開口時に小帯様に現れることがあるので注意を要する。頬棚と頬筋の付着を超えて延長するときは、頬粘膜の立ち上がりに沿って延長。決して頬粘膜を踏みしだくようにして延長してはならない。頬粘膜の自然な力で筋圧形成できるようにコンパウンドを柔らかくしてほしい。

 

3) オトガイ部

 オトガイ筋の収縮程度によって辺縁の位置や形態が決定され、強い収縮を印記した場合、辺縁は短くなる。また、オトガイ筋や頬筋は、歯列の頬側にある食塊を咬合面に載せるため、咀嚼運動の開口時に収縮することが多い。また、下顎前歯部の傾きによっては、オトガイ筋だけでなく、下唇自体がその緊張で義歯自体を持ち上げてしまう。この場合、辺縁から下顎前歯歯頸部にかけての研磨面形態を凹面にし、口輪筋の筋束の一部をひっかけるような形で義歯の持ち上がりを防ぐことができる。

 この部の床縁の厚みや研磨面形態は、上顎前歯の位置や水平被蓋、さらには下唇の長さによって変わってくるので、下顎前歯の位置や傾きなど、ケースバイケースの微妙な対応が必要と考えられる。排列試適時にもよく確認してほしい。

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