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2019年8月26日 (月)

「快適で安全」な監視社会 ②

続き:

 

フーコーとドゥルーズの監視社会論

 監視社会論では、フーコーのいう「規律社会」と、ドゥルーズのいう「管理社会」の対比がよく取り上げられる。フーコーの「規律社会」では、「パノプティコン」(イギリスの哲学者・ベンサムが構想した単一視点から全体を監視できる刑務所施設)における規律訓練を通じて、個々人における「規律の内面化」を促し、社会規範を自発的に守らせようとする。

 他方、ドゥルーズの「監視社会」では、個々人の「規範の内面化」のプロセスに頼ることなく、個人の属性や資格などのデータに応じて、その行動を直接的に管理しようとする。これは、情報システムなどの中に「規範」を設計段階からあらかじめ組み込んでしまうことで、社会の構成員に自動的に規範を守らせてしまう方法である。

 たとえば、鉄道会社が乗客のキセル(無賃乗車)を防ぐために、改札を自動改札にすることで、キセルという行動自体を不可能にするのがこの方法である。このような社会では、場における個人の行動の生起がコントロールされ、望ましくない行動や出来事は(情報システムの事前設定によって)未然に防がれるようになる。

 ID や生体認証技術を用いた入退管理システムや異常行動検知システム、あるいはプロファイリング技術を用いた顧客管理システム(たとえば購買履歴に基づくレコメンデーション、信用スコアに基づくサービスの差別化)等は、こうした「管理社会」を強化するためのツール(監視技術)である。

 

公共空間ですすむ監視カメラによる顔認識 <1>

 本稿では、議論のある監視技術して、まず監視カメラと顔認識技術について取り上げたい。公共空間(公道など)や私的空間(店舗など)におけるカメラの設置および顔認識技術の導入は、それが適切に行われる限り、治安の向上や消費者向けサービスの向上など、様々な便益を我々にもたらすものである。しかしながら、現時点では顔認識技術が社会に出始めたばかりであるため、十分なルール作りがなされていない状況。

 英国では、いくつかの地方警察が、監視カメラと顔認識技術を用いて、特定イベントの参加者の顔画像と犯罪者データベース等の顔写真とをリアルタイムに照合する(自動顔照合)という実証実験を行っている。レスターシャー警察の事例では、2015年6月の屋外音楽イベント(ロックフェスティバル)で、10万人の一般観衆相手に自動顔照合が行われ、同警察が保有する拘置者データベースおよび欧州刑事警察機構から得た国際犯の顔写真データベースと照合されていた。

 ロンドン警視庁の事例では、2016年8月のノッティングヒル・カーニバルで自動顔照合が行われ、照合にはカーニバルへの参加を禁じられた人や、犯罪を行うためにカーニバルに参加する可能性があるとして警察が指定した人(組織犯罪者等)のデータベースが用いられた。

 南ウェールズ警察の事例では、カーディフで開かれた2017年6月の欧州サッカー連盟チャンピオンリーグ決勝戦で、組織犯罪者・違法チケット販売者・フーリガンなど50万人のデータベースを用いた自動顔照合が行われた。

 これらは警察による自動顔照合実験であるが、民間による取り組みもある。ロンドンのキングスクロス駅前ではいま、東京ドーム6個分の広さの土地で再開発が進められており、大学や企業、マンションなどが建設される予定になっている。この再開発の敷地内には不動産会社保有の240台のカメラが設置、センターで集中管理されている。筆者(小泉)が2017年6月に訪問した際には、敷地内で自動顔照合実験が行われており、不動産会社は警察から犯罪者や行方不明者の顔写真を含む人物データを受領していた。担当者によれば、欧州の公共空間で初めての「常時」自動顔照合とのことであった。

 英国におけるこのような公共空間での自動顔照合には、プライバシー団体やデータ保護監督機関から様々な懸念が挙げられている。問題とされる1つ目の点は、顔照合の対象となる市民、個人への透明性の欠如である。英国の監視カメラコミッショナーによれば、「レスターシャーの事例では、自動顔照合を行うことに関する通知はチケットの裏面に小さな文字でなされたのみであり、それに気付いた参加ミュジシャンが反対声明を出すなど、かなり大きな問題になった」「自動顔照合の問題は、市民は撮影されていることには気付いても、データベースと照合されていることについてはわからないことだ」と述べている。

 2つ目は、顔照合データベースの内容に関わる点である。これらの事例では顔照合するデータベースの内容について公表されなかったため、自分も対象者に含まれているのではないかと思った市民が多かった。また、英国の警察では拘留者全員の顔写真(2000万人分)を保持しているが、無実となった人のデータも継続的に保持しており、こうした人も顔照合データベースに含めていることへの批判もある。

 3つ目は、顔認識技術の有効性に関する点である。英国の生体認証監督機関によれば、「自動顔照合が本当に犯罪防止に役立っているのか、どれほど正確なのかといったことのエビデンスがまだ足りない」とのことである。

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