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2019年10月 3日 (木)

Science ~材料科学の立場から考える~ ②

続き:

 

1. ジルコニアセラミックス

 

 ジルコニア冠は臼歯部審美補綴に広く使用されている。これは、ジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO2)の優れた機械的強度と口腔内環境での安定性・信頼性等によるものであるが、ジルコニア冠製作にCAD/CAM技術が導入されたことと、材料コストの点でその普及に大きく貢献している。

 現在歯科で使用されるジルコニアは、ジルコニア結晶体中にイットリア(酸化イットリウム:Y2O3)を3~6mol%添加したもの。イットリア以外にもアルミナ等の酸化物を微量含んでいる。ジルコニア中のイットリアの添加量によってジルコニアの結晶構造が変化する。

 ジルコニアの結晶形態には単斜晶、正方晶、立方晶の3種がある。室温では単斜晶が安定しているが、イットリアを3%程度含有させるとジルコニアは正方晶となる。歯科用ジルコニアは正方晶多結晶体ジルコニア (Tetragonal Zirconia Polycrystal: TZP) から始まった。

 このジルコニアを従来型ジルコニアと呼んでいる。従来型ジルコニアは大きな強度を持つが、光の不透過性のためコアやブリッジのフレームに使用されている。したがって審美性を付与するには陶材焼付金属冠のように長石質陶材を前装する必要がある。

 従来型ジルコニアではその審美性は前装セラミック(べニアセラミック)によるものである。このべニアセラミックは、ジルコニアの強度の1/6程度、それで、はるかに小さい。口腔内ではジルコニアではなく、べニアセラミックの破折(チッピング)が起きることがあり、べニア層の厚みを確保して強度と審美性を与えるために支台形成には十分なクリアランスが必要になる。

 べニアセラミックを必要としないフルジルコニア冠とするために光透過性を改善したジルコニアが次々と開発されている。TZP 中に含有するアルミナ結晶粒を減少させて透光性を向上させた高透光性ジルコニアが開発され、ジルコニアだけからなるフルジルコニア(モノリシック)冠が可能となった。さらに高透光性ジルコニアのイットリア含有量を3%から4~6%に増加させることにより、正方晶のみの TZP から正方晶と光透過性の高い立方晶が混在させた部分安定化ジルコニア(Partially Stabilized Zirconia : PSZ)にして、さらに高い透光性を有したジルコニアが開発され使用されている。高透光性ジルコニアが技術的にも審美的にも優れていることから今後のジルコニア冠の主流となると考えられる。

 さらに審美性のためにイットリア含有量の異なる高透光性ジルコニアそれぞれについて層状に着色した積層型ジルコニアも開発されている。着色層が4~5層の積層型ジルコニアもあり自然観を出している。また、2種の異なったジルコニア、3%と5%イットリア含有ジルコニアを積層したジルコニアも使用され始めている。ジルコニア製品には5種の単層ジルコニアと5種の積層型ジルコニアがある。

 透光性はイットリア量が増加するほど増し、それに伴って審美性も良くなる。高透光性ジルコニアは審美性のみではなく、クリアランスガ取れない症例においてもジルコニアの使用を可能とした。しかし機械的強度は、従来型ジルコニアが最も大きく、透光性が増すほど強さは減少する。

 従って、透光性の高いジルコニアはその強度と審美性から前歯部はの適用が推奨されるが、臼歯部での適用は十分な強度を確保するためにジルコニア冠の厚みは前歯部よりも厚くすることが必要である。臼歯部ブリッジや咬合力負担の大きい部位への適応は、強度の高い従来型ジルコニアや高透光性 TZP 等の使用が安全であろう。

 従来型ジルコニアは、べニアセラミックスの色合わせが審美感を与えるのに重要となる。べニアセラミックスは、一般陶材あるいはガラスセラミックスをジルコニアコア上に加圧成形あるいは焼成する。これらの材料はジルコニアのように強度はなく、焼成や加圧成形に際して熱膨張係数や熱伝導性がジルコニアと異なることから、べニアセラミックス層の破折・剥離を招く可能性を有している。

 特にジルコニアに対してべニアセラミックスの厚みが2倍を超えると、べニアセラミックス層の破折の可能性が増大するといわれる。従来型ジルコニア冠は、ジルコニアといってもべニアセラミックス層の強さに大きく依存することを理解して選択すべきである。

 

 

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