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2019年10月31日 (木)

エピジェネティクス ―生命科学の新しい必修科目― (1) ③

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■ エピジェネティック・ランドスケープ

 エピジェネティクスの概念は、1950年代に、エディンバラ大学のコンラッド・ワディントンによって提唱された。もともとは、多細胞生物がどのように発生してくるかを説明するための学説だった。その時に使われたのがエピジェネティック・ランドスケープ(地形)という有名な図である。

 どのような細胞にも分化できる「全能性」を持った細胞(受精卵)が、一番高いところに位置する。発生過程においては、その細胞が坂道を転がり落ちるように分化していくと考えるのだ。ゲノムは変わらないが、少しずつエピジェネティックな状態が変化しつつ転がり落ちてくる。そして、最終的に血液細胞や神経細胞など250~300種類の細胞に分化する。

 そうなると図の一番手前まできてどん詰まりになる。それで、エピジェネティックな状態は安定化する。エピジェネティクスの定義で述べたように、「安定的に維持されうる」というのは、こういった状況を指すのである。

 たとえば、ドリーのような体細胞核移植クローンでは一番手前にある細胞、すなわち完全に分化した細胞に体細胞の核を移植することにより、あるいは iPS 細胞の作製では、山中 4 因子の遺伝子を導入することにより坂道を押し上げてやることになる。それが、細胞のリプログラミングに相当するのだ。

 

                          ※

 

 今回は「エピジェネティクスとは何か」を説明するために、その定義、ふたつの例、そしてその概念の元となった考えについて説明した。次回からは「エピジェネティクスの分子基盤」、「エピジェネティクスの関与する生命現象」、「いろいろな病気とエピジェネティクス」、「エピジェネティクスを操る薬剤」、そして、「歯科領域とエピジェネティクス」というように話を進めていき、新しい生命科学の分野の理解を深めていくことにしたい。

 

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