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2019年10月16日 (水)

世界で競争力を失う原子力発電 ①

石田雅也(自然エネルギービジネスグループ・マネージャー)さんは「情報技術やエネルギー政策の最前線を取材。「世界 7」より コピーペー:

 

 原子力発電の運転終了が相次ぐ

 

 東日本大震災が発生した当時、筆者(石田)は米国のエレクトロニクス雑誌の日本版を発行していた。震災から数日後、ニューヨークの編集部から依頼されて、福島第一原子力発電所の事故の影響と電力供給の状況を記事に書いた。海外の人たちにも日本の現状を伝える必要があると考えたから。それまで日本の電力システムの問題点は信頼性が高いと喧伝されたきた。

 しかし震災の直後に起こった広範囲の停電、さらに計画停電という前代未聞の事態により、日本の電力システムの問題点が露呈した。その時に感じたとてつもない不安を、今も鮮明に覚えている。

 福島の事故を受けて、ドイツをはじめ多くの国が脱・原子力発電を選択して、自然エネルギーの推進へ大きく舵を切った。賢明な判断だ。ところが当事者の日本はどうか。その後も政府と経済界の一部が将来ビジョンのないまま原子力発電を復活させようと動いている。世界各国の最新の動向を見れば、不安の事故を経験した日本に原子力発電が必要ないことは明らかであるにもかかわらずだ。

  IAEA (国際原子力機関)の統計によると、全世界で運転可能な商用の原子炉は2018年12月の時点で約450基。そのうち最大の米国には98基あるが、1990年のピーク時と比べて13基少なくなった。2010年以降だけでも6基減っている。さらに2025年までに12基が運転終了予定。原子力発電で最大規模を誇る米国で縮小の動きが進んでいる(原子炉は原子力発電に必要な中核装置で、原子力発電設備の数や規模を示す時には原子炉が基本単位になる)。

 原子炉の減少が続く米国とは、対照的に、中国における原子炉の増加が目を引く。過去8年間で新たに33基の原子炉が運転開始。既存分と合わせた原子炉の数で日本を抜き、米国とフランスに次いで第3位の原子力発電大国になった。

 とはいえ火力発電や水力発電等を含む国全体の発電量のうち4%を占めるに過ぎない。中国では火力発電が70%で圧倒的に多い。さらに水力発電に加えて風力発電と太陽光発電が急増して、自然エネルギーを合計すると25%に達している。それと比べて原子力発電は、はるかに小規模にとどまっている。

 中国では全般的に発電所の建設費が安いが、最近は風力や太陽光の発電コスト(同じ量の電力を作るのに必要な総費用)が原子力よりも低くなった。先進国の米国やフランスでは原子力の発電コストが大幅に上昇して、風力・太陽光と比べて3倍以上の水準に跳ね上がっている。日本の福島第一原子力発電所の事故を受けて、安全対策の強化が求められるようになったことが大きな要因だ。

 加えて放射性廃棄物の処分が各国で進んでいない。こうした状況を考え合わせると、経済性と安全性の両面から、原子力発電所を新設するメリットが見いだせなくなってきた。その一方で老朽化が進む既設の原子炉の廃止がますます増えていく。これから世界全体で原子力発電が急速に縮小するシナリオが始まろうとしている。

 

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