Science ~材料科学の立場から考える~ ⑦
続き: <その 2>。
疋田らは良くコントロールされた症例の24か月までのCAD/CAMレジン冠の臨床経過を報告している。それによるとCAD/CAMレジン冠の破壊は214症例中1症例のみであり、冠脱離が10症例(4.7%)。上記の研究室での実験結果からの推測どおり、レジン冠材料は口腔内で機能するのに十分な機械的性質を有することがわかる。同様に末瀬らは、2年で平均8%の冠脱離が発生したと報告している。いずれにしても、CAD/CAMレジン冠の問題は口腔内での破折ではなく、冠脱離であり2年以内の発生割合は10%未満である。
疋田らは、冠脱離はメタルコア装着支台歯がレジンコア支台歯よりも多いと述べている。また、冠脱離の多くは装着後1~3か月に発生。冠脱離に関しては、レジン冠材料自体の問題ではなく、支台歯形成や接着操作による影響が大きい。特に離脱したレジン冠内面にセメントが付着していうことが見られたことから、レジン冠内面よりも支台歯表面との接着の優劣が冠脱離に影響を与えていることが推定できる。
仮着材除去や表面の清掃、確実なプライマー処理などの接着操作が重要であり、歯科医師の技量が大きく左右する。
メタコア装着支台歯での冠脱離が多く認められたことは、材料学的には材料の弾性係数は材料の不一致も原因と考えることもある。弾性係数は材料に荷重をかけた時にどの程度変形するかの目安になる数値。弾性係数の異なる材料に同じ荷重を負荷した時に、弾性係数の大きい材料は小さい材料よりも変形量が少ないことを意味する。
支台歯材料として、象牙質、コポジットレジン(レジンコアならびにCAD/CAM冠に相当)、金銀パラジウム合金(メタルコアに相当)、ジルコニアに対して小臼歯部ならびに大臼歯部の平均咬合力を負荷させた時に、これらの材料がどの程度変形するかを弾性係数から推定したものである。小臼歯・大臼歯部ともにコンポジットレジンと象牙質の推定変形量は近似しているが、コンポジットレジンと金銀パラジウム合金の推定変形量は、コンポジットレジンは金属の約6倍となっている。こお違いが、メタルコアにおいてレジン冠の脱離が多く見られたことの原因の一つと考えられる。<その 3>へ
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