« エピジェネティクス ―生命科学の新しい必修科目― (1) ① | トップページ | エピジェネティクス ―生命科学の新しい必修科目― (1) ③ »

2019年10月30日 (水)

エピジェネティクス ―生命科学の新しい必修科目― (1) ②

続き:

 

■ 飢餓の影響

 もうひとつ、エピジェネティクスが関係している例を紹介。それは、飢餓と生活習慣病の関係である。

 第二次世界大戦最後の冬、オランダの西部地区はナチスによる食糧封鎖を受け、深刻な飢餓に陥った。当然、お母さんのお腹の中にいた胎児も低栄養にさらされた。そうして生まれた赤ちゃんも今や75歳前後になっており、医学的な調査が行われた。

 その結果、耐糖能の異常、肥満、冠状動脈疾患、動脈硬化傾向、高血圧の比率が高いことがわかったのだ。不思議である。

 しかし、同じような現象が、まったく独立して報告されている。英国の疫学者デビッド・バーカー博士は、胎内発育不全により低体重で生まれた赤ちゃんは、大人になってから冠状動脈疾患になりやすいことを報告した。この現象は世界中で追試が行われて正しいことが確認され、バーカー仮説と呼ばれるようになった。

 一体どうしてこのような事が起きるのだろう。おそらく、胎児が低栄養状態におかれると、体のどこかに「環境(栄養も環境因子の一つである)は低栄養である」ということが刻み込まれるのであろう。低栄養に適応したからだ、いわば「低栄養仕様」の体になるのだ。生まれてからもずっと低栄養であれば、当然メリットがあるが、実際には、生後は普通に食べ物を摂取するようになる。ところが、体は低栄養仕様になってしまっているので、相対的に栄養が過剰になってしまう。そのために、冠状動脈疾患などの生活習慣病になりやすくなる、と考えられている。

 低栄養にさらされても DNA の塩基配列に変化は生じない。即ち、遺伝子に変異が起きたりはしない。しかし、体に刻み込まれた飢餓の記憶が何十年にもわたって持続する。

 現代の生命科学の知識でこのような現象を説明できるのは、エピジェネティクスしかありえない。

« エピジェネティクス ―生命科学の新しい必修科目― (1) ① | トップページ | エピジェネティクス ―生命科学の新しい必修科目― (1) ③ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事