「小型モジュール炉」 ③
続き:
前出の「長期エネルギー需要見通し」は、徹底した省エネルギーによって、2030年の電力需要を2013年から微増に抑えるとしている。実際には2014年以降の電力需要はそれほど伸びていない。元来、エネルギー多消費型の重厚長大産業は減っているし、世帯数は2020年ごろをピークに減少に転じると予想され、家庭でのエネルギー消費は黙っていても頭打ちだ。そこに徹底的な省エネルギーが行われれば、電力需要はさらに減少するだろう。筆者(小澤)には、この重要予測自体が過大なものに見える。
これに対して、再生可能エネルギーは予想を上回る伸びを示している。それを牽引したのはメガソーラーだが、風力発電に関しても伸びる余地がまだまだ大きいと考えている。よほどのことがなければ、再生可能エネルギーの2030年目標は前倒しで達成できそうに見える。
そのような状況の中で、にわかに注目を集めるようになったのが、新型原子炉「小型モジュール炉 (SMR)」である。きっかけは、2018年7月に閣議決定された「第五次エネルギー基本計画」だ。「2030年に向けた基本的な方針と政策対応」とタイトル付けた第二章のなかに、高温ガス炉、溶融塩炉とともに、小型モジュール炉という言葉が出てくる。それも「革新的な原子炉開発を進める米国や欧州の取組も踏まえつつ、国は長期的な開発ビジョンを掲げ」と、さらりと書かれているだけだ。ところが、実際の動きを見ると、経産省は小型モジュール炉にかなり力を入れているのである。
日本政府は、2018年5月に国際的な枠組み「 NICE F u t u r e (原子力革新:クリーンエネルギーの未来)構想」を米国やカナダとともに立ち上げ、その推進に主体的に関与している。同構想の狙いは、原子力をクリーンエネルギーとして気候変動対策の中に明確に位置づけようというもので、その中でフォーカスが当てられているのも、小型モジュール炉である。
小型モジュール炉は、従来型原子炉とは基本コンセプトが大きく異なる。従来型の大型商用原子炉(軽水炉)は、福島第一原発のような沸騰水型 (BWR) にしろ、加圧水型 (PWR) にしろ、一つのプラントとして現場で組み立てられる。工期も長い。当然、一基あたり出力が大きければ大きいほど発電単価が下がる。そのため多くの原子炉は100万KWを超える電気出力を持ち、計画中の九州電力川内3号機にいたっては159万KWという巨大なものだ。
これに対して SMR は、出力30万KW以下と、従来型原子炉に比べればかなり小さいが、モジュール炉という名のとおり、原子炉は既製のユニットになっていて、工場で製造され、大型トレーラー(あるいは列車や船)に載せて建設サイトまで運搬される。天然ガスタービンなどと同様に、一連の発電システムの中にはめ込むことができる原子炉なのである。
ただし、ひと口に小型モジュール炉と言っても原理や方式は様々。米国の原子力ベンチャー、ニュースケール社が開発しているのは従来型の加圧水型軽水炉を小型一体式にした「統合加圧水型軽水炉」で、一基あたり電気出力が5万KWだ。同会社ではこれを12基まで組み合わせて、一体的に運転させることが可能だとしている。
アルゼンチンでは、国立原子力委員会が設計し、ブエノスアイレス郊外に建設中の、やはり軽水炉タイプの原子炉を2020年代初めに稼動させる計画だ。これに対して、カナダのテレストリア・エナジー社が開発中の炉は、溶融塩炉というタイプで、燃料の低濃縮ウランはフッ化物溶融塩に溶けている。
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