Clinical 口腔症状を契機にHIV感染が判明した症例 ⑤
続き:
4. 口腔症状を契機に HIV 感染が判明した症例
1) ワークショップから5症例の報告
第32回 日本エイズ学会のワークショップでは、口腔症状により歯科を受診したHIV感染者10例の報告があった。そのうち5例が開業歯科医院を受診後、病院歯科へ紹介、他の5例は直接病院歯科への受診であった。―――代表症例を提示。
※ 症例 1 (国立病院機構仙台医療センター歯科口腔外科 後藤 哲、他)
患 者: 20代、男性
主 訴: 口腔内の白斑とピリピリとした口内痛
既往歴: 帯状疱疹(3年前)、ウイルス性髄膜炎(1年前)
現病歴: 初診の約2か月前より頬粘膜の口内炎に気付いたが放置していた。上顎左側大臼歯部の冷水痛で開業医(歯科)を受診、口腔内全体の白斑を指摘された、そして当科を紹介された。
現症および経過: 両側頬粘膜や口蓋、舌が広範囲に発赤し、口腔カンジダ症と思われる白苔形成がみられた。なお、冷水痛はう蝕によるものと思われた。免疫機能異常を疑い血液検査と胸部X線撮影を行ったところ、白血球数は1600/μL、CD4: 9.5%(数で48)、CD8: 53.9%、CD4・CD8比 0.18、HIV-RNA 定量 : 620,000 コピー/mL、βーDグルカン300pg/mL以上、KL-6:777U/mL であった。胸部X線画像で両側の上肺野に浸潤影がみられ、気管支鏡による検体検査でニューモシスチス・イロベチイを確認した。
診 断:両側ニューモシスチス肺炎、食道カンジダ症、尖圭コンジローマ、AIDS
※ 症例 2 (産業医科大学病院歯科口腔外科 平島惣一、他)
患 者:60代、男性
主 訴:多発口内炎
既往歴:前立腺肥大、2型糖尿病
現病歴:以前より口内炎を認めていたが、20Ⅸ年頃から頬粘膜や上唇粘膜に潰瘍が出現した。 近医歯科を受診し経過観察を受けたが潰瘍の改善はなく、潰瘍数の増加と接触痛による摂食困難のため大学病院を紹介され受診した。潰瘍面の細胞診で悪性所見はなく、口腔カンジダ陽性で、血液検査では結核および梅毒は否定された。口腔カンジダ症の診断で抗真菌薬と含嗽薬により治療されたが潰瘍の改善はなく、経口摂取を十分に行えないため2か月間で体重が約3kg減少。その頃から38℃台の発熱とともに白色痰を伴う湿性咳嗽が出現し、2型糖尿病で通院中のクリニックを受診したところ、胸部X線写真で浸潤影は認められないが、肺炎の疑いで抗生剤やNSAIDs の投薬を受けた。
しかし、発熱が持続するため再度病院を紹介された。白血球減少および貧血、逆流性食道炎、CTで両肺のすりガラス影等の異常所見を指摘されたが、やはり原因の特定には至らなかった。口腔内潰瘍は改善傾向を示したが、原因の精査を目的に前大学病院より当科を紹介され来院した。
現症および経過:発熱および多発口腔内潰瘍を認めた。当科初診時の問診でHIV感染の可能性のある行為について患者本人は否定したが、諸症状と経過から HIV 感染およびベーチェット病を疑い、当院の膠原病・リュウマチ内科・内分泌代謝糖尿病内科に転科した。
診 断:HIV 感染症、ニューモシスチス肺炎、食道カンジダ、サイトメガロウイルス胃炎、HBV キャリア
※ 症例 3 (新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面口腔外科学分野 永井孝宏、他)
患 者:40代、男性
主 訴:左側上顎歯肉の腫脹および左側眼痛
既往歴:脂質異常症
現病歴:200X 年5月下旬より左側眼痛を自覚していた。6月初旬より上顎左側歯肉に無痛症の腫脹が出現し様子をみていたが、増悪したため気になり同月当科を受診した。
現症および経過:上顎左側歯肉の無痛症腫脹と左側眼痛を認めたが、鼻症状がみられないにもかかわらず初診時のパノラマX線所見で左側上顎洞が右側に比較して不透過性が強く、さらに左側上顎洞底が不明瞭に吸収されていることから腫瘍性病変を疑い、同日CT検査を行った。その結果、上顎洞内から上顎洞後外側壁を吸収破壊し、歯肉の腫脹に連続する不透過像を認めた。
以上より、洞内全体に拡大する腫瘍性病変として耳鼻科に紹介した。生検前の血液検査でCD4:148/μL、VL:2.5X10X10X10copies/mL でHIV感染症が判明した。
診 断:悪性リンパ腫、AIDS
※ 症例 4 (国立病院機構名古屋医療センター歯科口腔外科 宇佐美雄司、他)
患 者:30代、男性
主 訴:口腔内の白苔
既往歴:特記すべき疾患はなし
現病歴:口腔内に白苔が発現したため、インターネットで自己検索により口腔カンジダ症と判断し、治療薬を希望して当科を受診。
現症および経過:口蓋部や頬粘膜部に白苔がまだらに付着し、舌苔が肥厚していた。さらに口角炎もみられた。床義歯の装着はなかった。口腔カンジダ症と診断、だが、年齢を考えると、HIV感染を疑った。比較的高身長でやや瘦せ型ではあったが、とくに憔悴したような所見はなかった。口腔カンジダ症の治療もさることながら、感染症等の検査の必要性を説明したところ、患者自身から1年前に保健所で匿名で検査を受けてHIV陽性であったことを告げられた。しかしながら、HIV感染症専門医療機関には未受診であったため当院感染症内科に診察を依頼した。
診 断:食道カンジダおよびニューモシスチス肺炎、AIDS
もう1例は次に記載。
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