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2019年11月 1日 (金)

日米 FTA (失うだけ―)①

鈴木宜弘(東京大学大学院農学生命科学研究科教授―農業経済学)さんの小論:「世界 9」より   コピーペー:

 

 日本は「保護主義と闘う自由貿易の旗手」のように振舞っているが、規制を撤廃し、貿易を自由化し、対等な競争条件(イコールフッティング)で競争すれば、全体が発展できるというのは建前にすぎない。実際は、日米の政治と結びついた「今だけ、金だけ、自分だけ」の資金力のある「オトモダチ」企業が、公共的なルールや制度、協同組合などの相互扶助的な組織を、「既得権益」「岩盤規制」と攻撃して破壊し、地域を支えるビジネスとお金を引き剥がし、自分たちのもうけの道具にできる新たなルールを作ろうとしている。

 そのような国家私物化、世界の私物化、それが規制緩和と貿易自由化の実態だ。しかも、極めて少数の特定の「オトモダチ」企業に徹底した便宜供与が企てられている。米国共和党のハッチ議員が2年ほどで5億円もの献金を製薬会社などから受け取り、患者の命を縮めようとも新薬のデータ保護期間を延長する(ジェネリック医薬品を阻止する)ルールを TPP (環太平洋連携協定)で求めたのは象徴的だ。

 保護主義と自由貿易の対立は、国民の利益とオトモダチ(グローバル企業)の利益の対立と言い換えるとわかりやすい。グローバル企業と政治・行政・メディア・研究者が、献金・天下り・広告料・研究資金の提供などを通じて一体化するメカニズムは、現在の政治経済システムが持っている普遍的欠陥である。市場支配力のある市場での規制緩和(拮抗力の排除)はさらなる富の集中により市場を歪めるので、経済理論的に間違っている。

 TPP をめぐっては、「国論を二分する」と言われたほどの論争が巻き起こった。12ヵ国による TPP は米国の離脱(8割近い米国民の TPP 反対の声がすべての大統領候補の離脱表明を導いた)で頓挫したが、TPP11 (米国抜きの TPP )が2018/12/30 に発効。ここで日本は、米国も含めた TPP 12 の内容を11ヵ国にそのまま譲歩してしまった。

 そうなれば、自分の分はどうしてくれるのか、ということで、米国がだまっているわけはなく、日米 FTA (自由貿易協定)交渉が始まった。米国は、TPP 12での日米合意以上の譲歩を要求している。すなわち、日本政府が「日米FTA を避けるために TPP 11 をやる必要がある」と説明していたのはウソで、TPP 11 と日米 FTA は最初からセットだった。

 日米 FTA はやらないと言っていたことをごまかすため、日米共同声明の日本語訳を改ざんまでして、「これは日米 FTA でなくTAG (物品貿易協定)だ」と言い張っている。

 さらに、TPP が頓挫したとき、代わりの成果がほしい官邸が、「 TPP 以上に譲歩していいから早く妥結しろ」と急がせた日欧 EPA (経済連携協定)も 2019/02/01 に発効。EU には TPP 以上に譲った。加えて、RCEP (東アジア地域包括的経済連携)も「TPP プラス」にしようと、「TPP ゾンビ」の増殖に日本政府は邁進している。

 これらを合わせれば、現状は、大問題になったTPP 12より事態が悪化していることを、まず深刻に受け止めないといけない。だが、その深刻さは国民に認識されていない。特に、日米 FTA は米国からのかねてからの要求を受け入れる「総仕上げ」になると懸念される。日本政府は、7月の参議院選挙が終わるまでは、国内向けには「米国には TPP 以上には譲らない」と言っておこうと目論んだが、「選挙が終われば、8月にいい話が出てくる」とトランプ米大統領にツイッターで「密約」をばらされてしまった。それでも政府を信頼できるというのは、日本国民は本当にお人好しである。

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