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2019年11月29日 (金)

Clinical 口腔症状を契機にHIV感染が判明した症例 ⑥

続き:

※ 症例5 (国立病院機構大阪医療センター口腔外科 有家 巧、他)

  患 者:40代、男性

  主 訴:飲水時に水が鼻に漏れる

  現病歴:201X 年 1 月頃、上顎の違和感を認め近くの歯科を受診した。う蝕および歯周炎の診断で治療を受けていたところ、同年6月頃に口蓋の口腔鼻腔瘻を指摘され病院口腔外科を紹介された。同科から耳鼻科に診察依頼され瘻孔部の生検を施行されたが確定診断に至らなかった。患者自身が不安に思い、同時期に保健センターでHIV検査を受けたところ抗原・抗体検査陽性、確認検査陽性の結果を得た。同結果をもとに、201X 7月上旬、当院感染症内科に紹介来院となり当科にも併診となった。

  現 症:口蓋正中に直径約3mmの瘻孔がみられ、同部の鼻腔底に肉芽の形成が認められた。上顎左側第1小臼歯は欠損し、隣在歯にかけてブリッジのリテイナーが装着されていた。内科初診時の検査データは、HR:5060 cp/mL、CD 4:483/μL、TPHA : 10240(上限 80)、RPR : 99(上限 1)、HBs : 抗原陰性、HCV : 抗体陰性、クラミジア:PCR 陰性であった。

  診 断:梅毒、HIV感染症(無症候性キャリア)

2) 過去の報告     本間らは自験例を含めて18例報告している。(略)

 

5. 考察および日常の歯科診療におけるHIV/AIDSの想起

 

 口腔症状を契機にHIV感染が判明した症例について、今回ワークショップの発表者から得られた5例に、過去の報告症例を加えた28例について考察した。

 病期ではHIVキャリアが15例、AIDSが12例、不明が1例であったことから、半数以上はキャリアの病期での歯科受診で、それによってAIDS発症の防止につながったと考える。一方、残りの約半数は診断時すでにAIDS(”いきなりAIDS”症例)で、感染機会があってからかなりの年月の経過が推測され、症例の年齢層が高いことと相関している。そして、厚労省のエイズ研究班(歯科)や河田のアンケート調査結果からも、その間に歯科を受診した可能性は極めて高く、早期発見の機会が少なからずあったのではないかと思われる。

 28症例にみられた32病変の口腔症状を表にまとめること(次)。

     ●   HIV 関連口腔病変として重要なもの   ●

 

1) 口腔粘膜病変

 口腔カンジダが11例(34.4%)と最多、その他の症状として口内炎・口腔潰瘍が5例(15.6%)で難治性のことが多い。また、白斑は3例(9.4%)でカンジダ症や毛様白板症の可能性が推測され、他の報告と同じ。その他の症状として、頬部あるいは歯肉等の口腔内の腫脹も3例(9.4%)報告されている。

2) 悪性腫瘍

 悪性腫瘍が6例で2番目に多く、AIDS指標疾患にも記載されているカボシ肉腫が4例(12.5%)、悪性リンパ腫が2例(6.3%)だ。悪性腫瘍の早期発見は重要な意義を持つが、前田らが記載した「口腔潜在的悪性疾患」にはHIV/AIDS関連口腔症状と重複する症状が複数あり、それらとの対比を表にある(次回に)。悪性腫瘍およびHIV/AIDS関連口腔症状は共通して「免疫機能の低下」が背景で、歯科診療においては口腔粘膜を同視点で観察すること、すなわち悪性腫瘍の発見がHIV感染症の発見の機会になることも再確認できる。

3) HIVと性感染、とくに梅毒

 症例 5の口腔鼻腔瘻はばいどくであった。性活動は個人の秘密に関連する事項で、問診にも反映されることがない。しかし、性行為のパートナー数が増加すると感染の機会が増えることは容易に想像できる。HIVも性感染症 (Sexually Transmitted Disease : STD)であり、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、梅毒と感染が合併することが報告されており、またよく経験している。

 従って「HIVを診たらSTD」を考えることが基本。

 また、最近は梅毒患者数が急増していることが報道されており、難治性の潰瘍、皮膚の発疹等の症状では梅毒、さらにはHIV感染の可能性もある。

 

6. まとめ

 

 HIV関連口腔病変は、そのほとんどが悪性腫瘍も含めた口腔粘膜あるいは軟部組織の変化だ。日常の歯科臨床において、難治性で診断、治療に難渋した場合、HIV感染の可能性を想起できないと症例 2のように、複数の医療機関を経てもHIV感染の診断に至らない例を招くことになる。このことから、通常の処置、治療で改善が得られず、対応に苦慮する口腔病変に遭遇した時、HIV/AIDSに対する意識を持つことが重要で、今すでにその時がきている。そして、それがHIV感染の早期発見、AIDSの予防、そして感染拡大の防止につながることは明らかである。

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