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2019年11月 7日 (木)

日米FTA (失うだけ―)⑦

続き:

 

■安全基準も「TPP超え」の譲歩が明白

 日本の対米外交は「対日年次改革要望書」「貿易障壁報告書」、米国在日商工会議所の意見書などに着々と応えていく(その執行機関が規制改革推進会議)だけだから、次に何が起こるかは予見できる。米国の対日要求リストには共済の対等な競争条件や食品の安全基準(食品添加物・残留農薬など)に関する項目が並んでいる。それをどれから差し出していくかという順番を考えるのが日本の「戦略的外交」である。

 例えば、BSE(牛海綿状脳症)に対応した米国産牛の月齢制限をTPPの「入場料」交渉で20ヵ月齢~30ヵ月齢まで緩めた(日本政府は「自主的に」やったことでTPPとは無関係と説明)が、さらに、米国からの要求に即座に対応できるよう食品安全委員会は1年以上前に準備を整えてスタンバイしていた。そして、2019/05/17に撤廃された。これは日米FTAの実質的な最初の成果だ。

 「日米レモン戦争」で日本車輸入を止めると脅かされ、使用禁止の収穫後農薬(防カビ剤)を食品添加物に分類して認めて来たが、今度は、米国からの輸入レモン等のパッケージに防カビ剤名が食品添加物として表示されるのを「不当」とされ、TPPの裏協議(二国間平行協議)で審査の簡素化を約束したが、表示そのものの撤廃が日米FTAで示されるのも既定事実と思われる。

 貿易自由化は農家が困るだけで、消費者にはメリットだ、というのは大間違いである。食と健康は不可分の関係にある。米国型の食生活と健康との関連については多くの気になる情報が示されている。食品添加物・農薬を含む食の安全基準緩和をさらに迫られ、米国型の食生活が浸透していくことの危険から日本国民の命と健康を守るためには、日本の安全・安心な食と農の健全な維持が欠かせない。

 これは「農家の問題」で済まされない、国民の命に関わる深刻な問題である。そのことを、生産者からもいっそう発信を強めるとともに、医療関係者を含め、社会全体として、国民に広く深く認識を浸透させないと手遅れになりかねない。なお、医療も、直接的に国民の命と健康な生活を守るために欠かせないが、命を粗末にして、グローバル企業などの儲けのために日本の薬価・医療制度を壊そうとする動き(公的医療保険の縮小など)も日米FTAで「総仕上げ」の段階に入る危険がある。

 さらに、米国は新NAFTA(北米自由貿易協定)において、TPPを上回る厳しい原産地規則(自動車部品等)のほか、食の安全基準が貿易の妨げにならないようにすることをTPPよりも強化し、遺伝子組み換え食品の貿易円滑化に重点を置いた条項をTPPよりも強化している。この新NAFTAが日米FTAの土台になることは間違いない。

 食品の安全性については、TPP12でも、国際的な安全基準(SPS)の順守を規定しているだけだから、日本の安全基準が影響を受けることはないという見解は間違いだと筆者(鈴木)は指摘してきた。何故なら、米国は日本が科学的根拠に基づかない国際基準以上の厳しい措置を採用しているのをSPSに合わさせるのがTPPだ、とかねてより言っているからである(2011/12/14、米国議会のTPPに関する公聴会でのマランティス次席通商代表(当時)の発言等)。

 米国の「科学主義」とは、仮に死者が出ていようとも因果関係が特定できるまでは規制してはいけない、というものである。だが、それでは手遅れになる。EUは「予防原則」で、米国が何を言おうが危ないものは止めるが、日本は米国の言いなりだから科学主義で攻めまくられる。今回のUSTRの交渉目的には、科学的根拠に基づく(science-based) SPS措置が明記されており、姿勢はより明確になっている。

 グローバル種子企業による日本への攻勢も強まっている。その世界戦略は種を握ることである。種を独占して、それを買わないと生きていけなくすれば、巨大なビジネスになる。だから公共的な種子提供のシステムを後退させ、自家採種を禁じて、遺伝子組み換えのF1(1代雑種)化して、買わざるを得ない状況を世界中に広げてきた。日本はすでに、公共種子事業をやめさせ(種子法廃止)、国と県が作ったコメの種の情報を企業に譲渡させ(農業競争力強化支援法)、自家採種は禁止する(種苗法改定)という3点セットを差し出した。

 消費者庁は「遺伝子組み換え(GM)でない」という表示を実質的にできなくする「GM非表示」化方針を出した。グローバル種子企業の要請そのままである。GMとセット販売される除草剤成分グリホサートへの逆風が世界中に強まっている中、それに逆行して、日本は2017/12/25のクリスマスに、米国の要請に応じて輸入穀物のグリホサート残留基準値を極端に緩和した。さらに、ゲノム編集では、予期せぬ遺伝子喪失・損傷・置換が世界の学会誌に報告されているのに、米国に呼応して、GMに該当しないとして野放しにする方針(届け出のみでよく、最低限の選ぶ権利である表示も義務化されない可能性)を打ち出した。

 インド、中南米、中国、ロシアなどは、国をあげてグローバル種子企業を排除し始めた。世界的な逆風の中、従順な日本が世界で唯一・最大の餌食にされつつある。

 なお、日豪EPA第二条・三条一~三項は、日本が日豪EPAよりも有利な条件を他国に提示したときは、それを豪州にも適用する再交渉ができることになっている。TPPでは項だてはないものの第二・三条に規定され、TPP11でも引き継がれている。WTO上の合意がそのFTAを上回った場合の対応を指すという解釈もあるが、日米FTAでの追加譲歩が他協定に波及していくことになると、まさに、「自由化ドミノ」が止まらなくなる危険も念頭に置かなくてはならない。

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