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2019年11月26日 (火)

Clinical 口腔症状を契機にHIV感染が判明した症例 ③

続き:

 

2. HIV感染症の概要と歯科

 

 HIV感染症とは、HIV(Human Immunodeficiency Virus : ヒト免疫不全ウイルス)に感染した状態をいう。HIVは主に細胞性免疫の司令塔とされるCD4陽性リンパ球に感染し、その中で急速に増殖する。この時期に、全例ではないがインフルエンザ様の急性感染症状を呈する。一応の免疫機能によりウイルス量は減少するが、身体から駆逐することはできない。一旦CD4陽性リンパ球数(正常ではおおむね1000個/血液 1 μL)とウイルス量が平衡状態となりほとんど症状のない無症候期となる。しかし、その間にCD4陽性リンパ球はゆっくり破壊・減少し、感染から数年~10数年で200個/血液 1μL を切ると免疫機能が破綻して日和見感染、悪性腫瘍等の多数の疾患が発症。

 そして、23ある指標疾患が一つでも出現すれば AIDS (Acquired Immunodeficiency Symdrome : 後天性免疫不全症候群)の発症となる。HIV はウイルス名、AIDS は疾患名であって、同じものではない。

 HIV が多く含まれる体液は血液、精液、膣分泌液、母乳で、そのため感染経路はほとんどが性行為で、約70%が男性同性間感染だ。その次に輸血や注射器などの共用~薬物乱用および医療従事者の血液・体液曝露など、そして出産や母乳(母子感染)である。ウイルス粒子あるいはウイルスRNAは唾液にもごく少量存在するが感染性は確認されていない。

 しかし、歯科診療では出血に伴う処置が多く、唾液に血液が混在していること忘れてはならない。加えて、EBウイルス(Epstein-Barr virus) などDNA ウイルスでは唾液が感染源と確認されている事実も再確認が必要だ。

 HIV感染症の治療は、1996年頃に多剤併用療法の登場によってコントロールが可能な感染症となり、死の病ではなく糖尿病や高血圧のような慢性疾患となった。また、HIVは感染力が弱く(B型肝炎の1/100)日常生活で感染することはない。感染防止の方法は感染経路の遮断である。

 歯科診療ではスタンダードプリコーション(Standard Precautions : 標準予防策)の順守とB型肝炎ウイルスワクチン接種で十分である。もしHIVによる針刺し等の血液・体液曝露に遭遇した場合、まず流水による十分な創部洗浄後、可及的速やかに、可能であれば「抗HIVガイドライン」が推奨するように2時間以内に抗HIV薬の予防内服(4週間)を開始することで感染はほぼ阻止できる。そのためには、日頃よりスタッフ全員が身近なエイズ拠点病院と時間外対応、夜間対応等の診療体制を確認しておく必要がある。

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