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2019年12月 5日 (木)

Science 硬組織の維持に働く幹細胞の新たな研究手法と最近の知見 ②

続き:

 

1. 遺伝子改変マウスを用いた細胞系譜解析

 

 細胞培養の実験で、骨髄間葉系幹細胞の生体内における動態を理解することは難しい。以下に示す技術を用いて特定の細胞種を標識し、その挙動を経時的に観察する実験系が考案され、幹細胞の評価が生体内で可能になった。

 

1) Cre/lox システムにより生体内の細胞を標識する原理

 Creは、バクテリオファージ P1 に由来する DNA の組み換え酵素であり、loxP と呼ばれる配列に挟まれたDNA領域を除去する性質を持つ。GFP や Tomato などの標識遺伝子(レポーター遺伝子)の上流に loxP 配列で挟み込んだ stop 配列(loxP-stop-loxP)を配置する。通常では、レポーター遺伝子は発現しないが、そこへ Cre 組み換え酵素が作用すると stop コドンが外れてその発現が誘導される。また、マウス染色体上の ROSA26と呼ばれるゲノム領域に人為的に導入された遺伝子は、ほぼすべての組織で発現する。

 したがって、ROSA26遺伝子座に、上述したloxP-stop-loxP/レポーター遺伝子を導入したマウスでは、いかなる細胞で Cre が活性化した場合でも、それに対応してレポーター遺伝子の発現が上昇し、細胞が標識される。

 

2) 特定の細胞を標識する原理

 前述の Cre/loxP システムを用いて、生体における単一の細胞種のみを標識するためには、Cre を特定の細胞だけに発現させる必要がある。生体における各種細胞間の遺伝子の発現は異なるが、この細胞特異性を利用することにより、単一の細胞種での Cre の発現が実現する。遺伝子発現は、遺伝子をコードするDNA領域の上流に位置するプロモーターと呼ばれる部位に転写因子が結合することにより誘導される。

 したがって、目的細胞で特異的に活性化するプロモーター領域の下流に Cre をコードする遺伝子を配置した遺伝子改変マウスでは、目的の細胞のみで Cre の発現が誘導される。以上の細胞特異的な Cre の発現遺伝子と、レポーターシステムを組み込んだ遺伝子改変マウスを用いて、生体内で目的の細胞のみを標識することができる。

 

3) 細胞を標識する時期を制御する原理

 生体内で Cre を発現させるタイミングを人為的にコントロールすることにより、細胞を標識する時期を調節することができる。エストロゲン受容体(ER)の変異体(ERT2)は、エストロゲンとの親和性がなく、その類似化合物であるタモキシフェンと結合する。

 Cre と ERT2の融合タンパク質は、通常は細胞質に局在するが、タモキシフェンと結合すると核に移行して Cre の活性が機能する。すなわち、タモキシフェンを投与するタイミングで、目的の細胞を標識することができる。タモキシフェンの生体内での半減期が48時間以内であるため、誘導された Cre の機能発現は一過性である。

 標識された特定の細胞を長期間にわたり観察し、その永続性(自己複製)と子孫細胞への多分化能を観察することにより、生体内における幹細胞性を評価することができる。

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