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2019年12月 6日 (金)

Science 硬組織の維持に働く幹細胞の新たな研究手法と最近の知見 ③

続き: 

 

2. 細胞系譜解析を用いた骨髄間葉系幹細胞の同定

 

1) 骨の発生過程における骨髄間葉系幹細胞の起源

 我々は、細胞系譜解析により、骨髄間葉系幹細胞を生体内で同定することを試みた。Osterix(Osx)は、間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化に必須な転写因子だ。興味深いことに、マウス胎生期の骨が発生する部位に出現する軟骨原基には、広範囲な領域にOsxの発現が観察された。以上の所見から、骨の成長過程にOsxを発現する細胞の中に、成体の骨髄間葉系幹細胞の起源となる細胞が含まれることを予測し、Osx陽性細胞の細胞系譜解析を試みた。

 タモキシフェンの投与に依存して、Osx陽性細胞でTomato蛍光タンパク質の発現が上昇する遺伝子改変マウス(以下、Osx-CreERT2/Tomatoマウス)を作製した。

 新生存期(生後5日齢)のOsx-CreERT2/Tomatoマウスへのタモキシフェン投与1日後では、長管骨の骨組織の周囲に限局してTomato陽性細胞が認められた。一方、タモキシフェン投与の3週間後では、骨組織周囲に加え骨髄全体に走行する血管に近接した場所にTomato陽性細胞が骨髄間質細胞(以下、Osx由来間質細胞)として出現した。Osx由来間質細胞は、長期間骨組織に残存することが明らかとなり、この永続的な存在様式は幹細胞の特徴の一つである自己複製能を彷彿させた。

 

2) Osx由来間質細胞の多分化能の検討

 Osx由来間質細胞が幹細胞であることを証明するために、骨芽細胞への分化能を細胞系譜解析により検討した。Osx由来間質細胞で特異的に発現する分子を検索した結果、レプチン受容体(LepR)が陽性であることを見い出した。LepR陽性細胞でTomato蛍光タンパク質が発現する遺伝子改変マウス(以下、LepR-Cre/Tomatoマウス)を作製して、LepR陽性細胞の挙動を観察した。

 3週齢のLepR-Cre/Tomato マウスではTomato陽性細胞が骨髄組織全体に認められたが、骨芽細胞および骨細胞はTomatoが陰性であった。一方、15週齢の骨組織ではTomatoの発現が骨髄間質細胞だけでなく、骨形成細胞に観察された。以上の所見から、LepR陽性細胞は、成長に伴い骨形成細胞に分化することが生体内で実証された。

 さらに、LepR陽性細胞の多分化能を、細胞系譜解析により検討した。その結果、骨髄の脂肪細胞及び骨折の治癒過程に出現する軟骨細胞も、LepR陽性細胞に由来することが示された。以上の所見から、LepR陽性細胞が成体の骨髄間葉系幹細胞(以下、LepR間葉系幹細胞)であり、新生仔期にOsxが陽性の細胞集団には、その起源となる細胞が含まれることが示された。

 

3) 骨の発生時期に働く間葉系幹細胞

 注目するべきことに、生後間もない時期の骨芽細胞は、LepR+間葉系幹細胞に由来しない。若齢期では、LepR+間葉系幹細胞とは異なる細胞が、骨芽細胞を供給することを示唆する。

 アメリカのKronenbergらは、骨組織の発生部位に出現する軟骨原基でⅡ型コラーゲン(ColⅡ)を発現する細胞の系譜解析を行い、ColⅡ陽性細胞がLepR+間葉系幹細胞の起源であることを示した。重要なことに、成長期のマウス骨組織において、ColⅡ陽性細胞はLepR*間葉系幹細胞を介さずに直接的に骨芽細胞に分化する。

 以上の所見から、①個体の発生時期には骨の急激な成長に対応してColⅡ陽性細胞が骨芽細胞を供給すること、②成長期以降では、LepR+間葉系幹細胞が幹細胞として機能して骨芽細胞を供給することにより、緩やかな骨のリモデリングに貢献することが推察された。

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