Science 歯髄幹細胞が広げる細胞治療の今後の展望 ②
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2. 歯髄の中の歯髄幹細胞の役割
歯髄の基礎から復習しよう。本田(筆者)は2000年からボストンにあるフォーサイス研究所でバカンティ先生らと歯の再生研究に没頭していたが、米国国立衛生研究所(NIH)のグループは歯髄幹細胞を発見した。歯髄幹細胞は、骨髄や脂肪にいる間葉系幹細胞と同じ特性を持つので間葉系幹細胞の一種だ。間葉系幹細胞は培養皿の中で骨芽細胞、軟骨細胞および脂肪細胞に分化成熟してきて、間葉系組織の骨、脂肪および軟骨を形成する。
歯の組織を分類すると、エナメル質は上皮系の組織だが、それ以外の歯髄、象牙質、セメント質および歯根膜は間葉系組織になる。学生の時に歯の組織学や発生学の講義で「歯髄幹細胞」について学んだだろうか?本田は平成元年卒業であるので、幹細胞は学んでいない。しかし、今では「歯髄や象牙質の形成」の講義を幹細胞の概念で教えている。
例えば、象牙芽細胞が必要な時は、どの細胞から象牙芽細胞が作られるか(象牙芽細胞の由来を考える)?また、歯髄そのものを作る繊維芽細胞が必要な時に、どの細胞から繊維芽細胞が作られるか?――どちらも歯髄幹細胞だ。歯髄幹細胞は分裂して増殖する能力を持つ。細胞分裂は、1つの細胞が2つになるが、片方はそのまま歯髄幹細胞として維持されて残り、もう片方が象牙芽細胞や繊維芽細胞に分化して機能をもつ。
「分化」という言葉は聞きなれない言葉だが、幹細胞から徐々に成熟して機能を持った細胞になることを「分化する」という。つまり、象牙質を作るために、歯髄幹細胞が象牙芽細胞に分化し、象牙質本体の基質を作る工場の働きをする。しかし、分裂する能力はない。幹細胞の多種類の細胞に分化できる能力を「多分化能」と呼ぶ。
もう1つの幹細胞の機能は、自分と同じ機能を持つ細胞(幹細胞)を産み出すことだ。これを「自己複製能」と呼ぶ。
象牙芽細胞は増殖する能力がないので、自己複製能もない。
従って、歯髄幹細胞がすべて象牙芽細胞になる(分化する)と、歯髄幹細胞は枯渇し、次に象牙芽細胞を供給できないので組織が維持できない。逆に、歯髄幹細胞には組織を作る工場の働きはない。つまり、歯髄幹細胞は繊維芽細胞や象牙芽細胞に分化して、歯髄や象牙質を維持する大事な役割がある。
一方で、歯髄幹細胞が枯渇すると、組織の維持が困難になり、機能不全になる。幹細胞の数が減少すると、病気に罹患しやすくなる。
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