Science 硬組織の維持に働く幹細胞の新たな研究手法と最近の知見 ④
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3. 骨粗鬆症治療薬に対するLepR+間葉系幹細胞の重要性
副甲状腺ホルモン(PTH)における、N末端1~34番目のアミノ酸[PTH(1-34)」断片は、強力な骨量増加作用を示す。したがって、ヒトPTH(1-34)が骨粗鬆症の治療薬として臨床で広く活用されているが、その作用メカニズムはよく分かっていない。我々は、LepR+間葉系幹細胞とPTH(1-34)誘導性の骨量増加作用との関連性を調べた。
1) PTH (1-34) 投与後の成熟骨芽細胞の観察
PTH(1-34) の作用機序として、成熟骨芽細胞数の上昇を介して骨量を増やすことが知られている。Ⅰ型コラーゲン(ColⅠ)のプロモーター領域の下流でGFPを発現する遺伝子改変マウスでは、成熟骨芽細胞をGFP陽性細胞として観察できる。我々の観察においても、PTH(1-34)投与による、成熟骨芽細胞の増殖活性の亢進は認められなかった。
以上の所見は、PTH(1-34)が誘導する成熟骨芽細胞の増加作用は、骨芽細胞自身の増殖亢進によるものではないことを示唆する。
2) LepR+間葉系幹細胞の骨芽細胞分化に対するPTH(1-34)の作用
それではどのような機構を介してPTH(1-34)は成熟骨芽細胞数を増やすのであろうか?我々は、PTH(1-34)の投与がLepR+間葉系幹細胞の骨芽細胞分化を促進することを見い出した。以上より、PTH(1-34)が成熟骨芽細胞を増やす理由は、LepR+間葉系幹細胞からの分化・供給が亢進する結果であると結論した。興味深いことにPTH(1-34)を投与したマウスでは、成熟骨芽細胞に近接した場所で、層状に並んだLepR+間葉系幹細胞の系譜細胞(Multi-layered cells)が観察され、それらは増殖していた。
さらに、Multilayered cells は、骨表面の成熟骨芽細胞に近づくにつれ、骨芽細胞の分化を示すマーカータンパク質であるRunx2、Osx、ColⅠの発現が、順次上昇することが明らかになった。以上の結果より、LepR+間葉系幹細胞は、骨芽細胞に分化することによりPTH(1-34)誘導性の骨量増加作用に貢献することが示された。
3) LepR+間葉系幹細胞の脂肪細胞分化に対するPTH(1-34)の作用
我々は、骨芽細胞分化を促進したPTH(1-34)が、脂肪細胞分化にも影響を及ぼすと推察した。卵巣を摘出した閉経後骨粗鬆症のモデルマウス(OVXマウス)では骨量が低下し、その一方で脂肪細胞分化が上昇する。細胞系譜解析により、OVXマウスで増加した脂肪細胞がLepR+間葉系幹細胞に由来することが示され、それらはPTH(1-34)の投与により、著しく減少することが明らかになった。
また、OVXマウスにおいても、PTH(1-34)の投与はLepR+間葉系幹細胞の骨芽細胞分化を促進した。したがってPTH(1-34)は、LepR+間葉系幹細胞の分化の方向性を脂肪細胞から骨芽細胞側へとスイッチすることにより、骨量低下を改善する機能を発揮することが示された。
他の研究グループからも同様の報告がなされている。Lanskeらは、① PTH 受容体を、骨髄のすべての間葉系細胞で抑制すると、脂肪髄の形成が亢進して骨量が低下すること、②骨粗鬆症患者へのPTH(1-34)の投与が脂肪髄を抑制することを報告した。またPTH(1-34)の数週間にわたる投与を中止すると、逆に脂肪髄の形成が顕著に亢進するとの報告もなされており、さらなる作用機序の解明が待たれる。
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