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2019年12月28日 (土)

Science 歯髄幹細胞が広げる細胞治療の今後の展望 ③

続き:

 

3. 歯髄幹細胞を活用した歯科治療はすでに行われている

 歯科医師は歯髄幹細胞を利用した治療を行ってきた。それは、覆罩材を用いた歯髄温存療法だ。う蝕を除去すると露髄することもあったが、歯髄の温存を第一に考えて、治療の機構も知らずに直接覆罩材を使っていた。今では、直接覆罩材添付後の治療機構は、歯髄幹細胞で説明できる。

 露髄すると露髄部の象牙芽細胞は死滅するので、象牙質橋を作る象牙芽細胞が新たに必要となる。ここで歯髄幹細胞の出番だ。

 直接覆罩材を露髄部に充填すると、その刺激によって歯髄幹細胞が分裂・増殖して、その片方が象牙芽細胞に分化しながら直接覆罩材の直下に遊走してくる。この象牙芽細胞が象牙質基質を作成して空いた穴を塞ぐと象牙質橋の完成だ。細胞治療(再生医療)というと、遠い話のように聞こえるが、歯科医師にとって細胞治療はとても身近にある。

 しかし、この直接覆罩材の治療には限界がある。例えば、象牙質の欠損が大きい時は適応しない。この理由として、再生する象牙質量が足りないから。そこで、細胞移植の出番となる。象牙質を形成する象牙芽細胞の数が多いと象牙質の形成量も大きくなるので、大きな穴を塞ぐことができる。象牙芽細胞を生み出す歯髄幹細胞を露髄部に投与すれば、象牙芽細胞数は多くなり、大きな露髄への治療も可能になる。

 歯科治療における細胞治療を、細胞の補充療法と考えると分かりやすい。

 

4. 歯髄細胞の移植治療が歯髄温存療法の適応を広げる

 無髄歯になると再感染や破折する頻度が高くなるので、歯を延命するために歯髄温存療法の適応を拡大する意義は大きい。本田は名古屋大学医学部付属病院歯科口腔外科に在籍時、細胞を直接覆罩材として歯髄温存療法の実験を行った。イヌの臼歯バーで削除して歯髄を露髄させた直後に、イヌの歯から採取した歯髄細胞をβ型リン酸3カルシウム(β-TCP)と一緒に露髄部に充填した。窩洞はレジンで封鎖する。細胞移植後24週にて、マイクロCTで硬組織を確認したので、組織学的に観察すると、象牙質橋を形成していた。その象牙質には象牙細管も認めた。細胞を移植しても天然の象牙質と類似する象牙質が再生できた。

 この結果から、細胞を直接覆罩材として用いることで、これまでは適応とならなかった露髄部の大きさでも、歯髄の温存が可能となる。しかしながら、現在、この治療法の臨床応用への課題は高額な治療費なのだ。

 

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