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2020年1月 7日 (火)

「殺人の自動化というテクノロジー」―④

続き:

 

<4> 戦争の変容

 「不必要なリスク」を避けるためにドローンや自律型兵器が必要という論理は、なかなか説得力がある。しかし戦場で兵士が曝されるリスクが、本当に「不必要」であるのかどうかは慎重に検討する必要があるだろう。そこでここでは、ドローンの導入がどのように戦争を変容させたかを検討、それをもって自律型兵器の導入について考える手掛かりとする。

 アメリカのメディア、The Intercept は、2015年に匿名の「情報源」から、ドローン攻撃に関するシフの内部文書を入手した。この「ドローン文書」から明らかになったオバマ政権下でのドローン攻撃の実態は、「倫理的」とは程遠いものだった。ドローン文書について The Intercept による記事は、The Assassination Complex (暗殺複合体)とタイトルを付けた書籍にまとめられた。このタイトルの通り、ドローンはしばしば「戦闘」と言うよりも「暗殺」と言う方が相応しい作戦に使われている。ドローンは交戦地域の外で、日常生活を送る標的を常時監視し、しばしば標的が気付かないうちにミサイルを撃ち込んで殺害する。ホワイトハウスが公にしている基準では、「アメリカ人に継続的で差し迫った脅威を与えている」人間に対して致死的攻撃を与えるということになっている。しかしアメリカがドローン攻撃を実行した国の中にはイエメンやソマリアのように、ほとんどアメリカ人はおらず、かつドローンが飛び立つ基地から500kmから1000kmも離れているような場所もある。もしこのような攻撃が正当な戦闘行為として認められるならば、アメリカ国内にいる軍人が日常生活を送っているテロリストが殺害することも正当な戦闘行為になるだろう。

 もう一つ目に付くのが標的以外の死者の多さである。アメリカはしばしばドローン攻撃が「精密」であることを宣伝している。しかし2012/05~2012/09にわたってアフガニスタンで遂行されたヘイメイカー作戦では、空爆によって殺された標的19人に対し、155人もの標的外の人間が殺されている。地上部隊による襲撃が標的13人に対して、標的以外の殺害は2人だったことと比べると、ドローン攻撃がいかに雑なものであるかが分かる。ただし作戦の成功率(作戦数に対する、殺害された標的数の割合)で言えばドローン攻撃による空爆の方が高い。成功率が高く、アメリカ兵の犠牲者は出さないということで、アメリカはますますドローン攻撃に頼るようになっており、それに伴って標的以外の犠牲者は増加していく。

 2019年の前半、アフガニスタンで殺された民間人の数字は1400人に上ったが、そのうちの52%がアフガニスタン政府側部隊とアメリカ軍によるもので、タリバンや「イスラム国」による39%を上回っている。つまりアフガニスタン政府とアメリカ軍は、タリバンや「イスラム国」より多くの民間人を殺しているということである。この一つの原因が、アメリカ軍の空爆への依存の高さである。アフガニスタンとアメリカ軍による民間人の犠牲者のうち363人は空爆の巻き添えになった人々だった。

 この背景にはアメリカなどの先進国では「兵士の命の価値」が高まっており、自国の兵士の死に対して社会が非常に敏感になっているという事情がある。しかし自国の兵士の命の価値を重視するあまり、敵国の民間人の命の価値が軽視されているということは注意するべきだ。この問題はドローン攻撃の精密さを挙げることで多少は緩和されるかもしれない。しかし本当の問題は、ドローンのような兵器を手にしたことで、自国の兵士の犠牲を避けるためならば、敵国の民間人の犠牲は正当化される、という考え方に導かれてしまうことであろう。

 アメリカ軍によるドローンの運用の実態から、ドローンの導入によって、戦闘の地理的範囲が拡大していること、本来なら「暗殺」と言って、非難されてしかるべきものが「戦闘」という事になること、自国の兵士の命を重視して敵側の民間人の命を軽視するようになっていることが見て取れる。

 そしておそらくこれらのことは自律型兵器にも当てはまるだろう。現在アメリカはドローンのオペレーターを増員させているが、それでも、不足に悩まされている。ドローンが自律型兵器になればオペレーター不足は解消され、ますます多くのドローン攻撃が行なわれるだろう。ドローン攻撃が増えれば、アメリカ兵のリスクは減少し、ますます命の価値の格差が広がるだろう。

 

 

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