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2020年1月 9日 (木)

エピジェネティクス―生命科学の新しい必修科目―(3) ②

続き:

 

■ ネズミの「かわいがられ方」とストレス耐性

 ストレスがかかると、いわゆるストレス反応が生じる。この反応の一因であるコルチゾールは、視床下部ー下垂体ー副腎系を介して分泌が制御されている。この系は、さらに脳の海馬による制御を受けていること、また、ストレスを受けた時、コルチゾールの値が高いままにならないように、海馬ー視床下部ー下垂体ー副腎系が機能することが知られている。

 より具体的に言うと、海馬や視床下部のコルチゾール受容体が血中コルチゾールを感知し、この系がネガティブ・フィードバック機構によって負に制御される。その結果、コルチゾールの分泌量がさがるのである。

 ずいぶんと昔から、ラットの実験で、生まれたての赤ちゃんがかわいがられるかどうかによって、視床下部ー下垂体ー副腎系が影響を受けることが知られていた。というのは、生後1週間に、母親によくかわいがられたラットは、ストレスを受けてもコルチゾールの値があまり上がらず、ストレス反応が引き起こされない。即ち、ストレスに強い個体に育つのだ。

 生まれてすぐの1週間にかわいがられたラットの海馬を調べてやると、コルチゾール受容体遺伝子の制御領域におけるDNAメチル化が低下していることが分かった。DNAのメチル化は遺伝子発現を抑制することを思い出してほしい。DNAのメチル化が低下するということはその逆なので、遺伝子発現が上昇するということになる。

 だから、生まれてすぐにかわいがられたラットでは、海馬におけるコルチゾール受容体の量が多くなっている。そのために、血中コルチゾールにより強く反応し、ネガティブ・フィードバックが効きやすく、ストレスを受けてもコルチゾール値が低く保たれるのだ。

 このような現象は、生まれてすぐにかわいがられないと生じない。これは、エピジェネティクスによる影響は、発生の早い段階、あるいは、幼弱な段階ほど可塑性が高いということを物語る一例である。

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