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2020年1月10日 (金)

エピジェネティクス―生命科学の新しい必修科目―(3) ③

続き:

 

■ アサガオ、ミツバチ、記憶と学習

 他にも、アサガオの模様や、ミツバチが女王蜂になるかどうか、記憶と学習にもエピジェネティクスが強く関与する。アサガオの雀班模様は、色素を産生する酵素が発現するかどうかによって決定されているが、その発現はDNAのメチル化によって制御されている。

 女王蜂と働き蜂は遺伝的には全く同じなのだが、どちらになるかは餌によって決定される。ローヤルゼリーが与えられると女王蜂に、花粉や花蜜が与えられると働き蜂になる。そして、女王蜂になるか働き蜂になるかにはDNAのメチル化が極めて重要であることがわかっている。

 記憶と学習には神経細胞の電気的ポテンシャルが重要。しかし、それだけでなく、タンパク質の合成も必須であり、DNAメチル化やヒストン修飾が大きな役割を果たしている。HDAC阻害剤を、記憶に重要な部位である海馬に注入すると、いつか、エピジェネティクスを操作して記憶力をよくするサプリなどが出てくるかもしれない。しかし、そんなサプリを服用すると、イヤな記憶が頭にこびりついたままになって、大変なことになってしまうのではないだろうか。

 

 じつにさまざまな生命現象に、エピジェネティクスが関与していることをおわかりいただけただろうか。しかし、すべての遺伝子発現に関係している割には、エピジェネティクスが決定的に重要であることが分かっている生命現象は必ずしも多くありません。一方で、関係していそうだけれど、分子レベルでどうなっているかが分からない、というような現象はたくさん知られています。

             次回はエピジェネティクスと医学の関係について。

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