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2020年1月 8日 (水)

エピジェネティクス ―生命科学の新しい必修科目―(3) ①

仲野 徹(大阪大学大学院生命機能研究科時空生物学・医学系研究科病理学教授)さんの研究論文を載せる。:コピーペー

 

 エピジェネティクスによる遺伝子発現制御は、すべての遺伝子において機能している。そういった意味では、エピジェネティクスはすべての生命現象において何らかの役割を担っている、ということができる。しかし、それでは、何も言っていないのと同じになってしまう。今回は、エピジェネティクスが決定的に関係している生命現象のいくつかについて話していきます。

 

■ 「一夫一婦制」とエピジェネティクス

 ネズミの仲間のほとんどはつがいを作らない。しかし、北米に住プレーリーハタネズミは例外的で一雌一雄制をとる。とても律儀で、相方が亡くなると、再びつがいは作らないそうだ。しかし、DNA親子鑑定の結果、ときどき婚外子(?)をもうけることが確認されている。なにもそんな研究をしてあげなくていいのに、と思うのは仲野(著者)だけだろうか。

 つがい形成にはペアボンディングアッセイという方法が用いられる。会ったことのないオスとメスを同じケージに入れると、最初はよそよそしいのが、いちゃいちゃするようになる。その時間を観察するという方法。通常、いちゃいちゃするまでに要する時間は約1日で、それまでに必ず交尾をする。

 ところがメスの脳にヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害剤を注射してやると、交尾することなく6時間程度で仲良くなる。HDAC阻害剤とは、ヒストンの脱アセチル化を抑制する薬剤である。従って、この薬剤の投与によりヒストンのアセチル化が増加し、遺伝子の発現が活性化される。

 研究の結果、HDAC阻害剤の作用により、プレーリーハタネズミの脳でオキシトシン受容体の発現が向上していることが明らかになった。オキシトシンはもともと子宮収縮を促すホルモンとして知られていたが、その機能は多彩で、母性の発現に重要な役割を持っており、愛情ホルモンと呼ばれることもある。その受容体の発現亢進が、つがい形成につながるのだ。

 この成果は、エピジェネティクスは、一雌一雄制のような社会行動までをも制御することがある。と解釈することができる。特殊な例かもしれないが、一寸、面白い話だとは思われないだろうか。

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