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2020年2月17日 (月)

Science Evidence-Based Medicine (EBM) の実践を考える ⑥ 

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12. エビデンスレベルからエビデンスの質へ

 

 エビデンスヒエラルキーと呼ばれる図示した"Haynesの6S"と似ているが、別物である。各研究の、エビデンスレベルを研究デザインごとにピラミッド構造で示した図である。RCTが高い研究デザインに位置し、そのさらに上層にSRやメタアナリシスが位置する。RCTは無作為に患者を割り付けることから、未知の交絡因子の影響を最小限とすることが可能となり、治療効果や予防効果を検証するにあたっては最も優れた研究デザインといって良い。そして同様な検証を行ったRCTが複数存在するのであれば、これらを集積し、メタアナリシスを行えばサンプルサイズ大きくなることから統計学的検出力が増す。ゆえにSR・メタアナリシスはヒエラルキーの頂点に位置付けられた。

 逆に最も下層に位置するのはケースシリーズやケースレポートである。これらは対照を持たず、成功例のみを報告している可能性もあることから、効果の大きさを正しく把握することは困難である。

 エビデンスヒエラルキーは単純で分かりやすい図である。しかしながら、現実はそれほど単純ではない。2016年にMuradらは現状を鑑みて、"New evidence pyramid"というタイトルでピラミッドを2段階改変した。

 1段階目では、信頼度を研究デザインで分ける線が波状に変更された。これは研究デザインのみで信頼度を分けることの困難性を意味している。実際に、脱落率が高く盲検化が不十分なRCTよりも、全例を適切にフォローし、既知の交絡因子の調整を行ったコホート研究の信頼度が高い場合がある。

 研究デザインのみならず、リスクオブバイアスも併せて評価することが重要なのである。歯科領域においては、RCTが実現可能な範囲は限定的である。いつまでも「今後、質の高いRCTがなされることを期待する」と述べていても、状況は進展しない。むしろこれからは丁寧に行なわれた観察研究(コホート研究、症例対照研究)が大きな意味を持つであろう。

 2段目ではSR・メタアナリシスはヒエラルキーから切り取られ、これらを覗くレンズとなった。SR・メタアナリシスはエビデンスを概観するツールなのである。

 

13. システマティックレビューの有する問題点

 

 筆者(蓮池、佐藤)らのグループは、2010年~2017年に出版されたインプラント周囲炎治療に関するSRを網羅的に検索し、その報告の質を評価した。検索された23本のSRのうち、1本を除いてすべてのSRで”リスクオブバイアス高”と判定。23本のうち半数以上のSRでケースシリーズ研究やケースレポートを組み入れ、RCT由来のエビデンス不足を補填していた。このうち、いくつかのSRでは、ケースレポートから得られた数値を基にメタアナリシスによる統合が行われていた。

 ケースレポートでは症例の組み入れを恣意的に調整できることから、得られた治癒率を評価・統合することは不可能である。ゆえにこれらのSRは不適切な事例と言える。

 また、エビデンス不足を補うもう一つの方法としてネットワークメタアナリシスを用いたSRが3本認められた。ネットワークメタアナリシスとは、直接比較が行われていないが一部に評価対象である治療が含まれる試験から間接的に得られる結果を統計学的に統合する解析手法である。ネットワークメタアナリシスの運用方法はいまだ議論が成されているところであり、現時点では解釈・評価が困難。

 歯科領域におけるRCTの実現可能性は限定的であり、エビデンスが不足している場合のSR作成方法に関しては歯科界全体で議論されるべきであろう。読者はこのような問題点を意識して、SRを読み解く必要がある。

 

14. GRADE system と診療ガイドライン

 

 Haynes の6Sにおいて、診療ガイドラインは第5層に位置付けられている。米国医学研究所(現・米国科学アカデミー)の定義では、診療ガイドラインとは「特定の臨床状況のもとで、臨床家と患者が適切な判断や決断を下せるように支援する目的で系統的に作成された文書」とされている。すなわち、診療ガイドラインは「系統的に作成されていること」と「シェアードディシジョンメイキングに利用可能なこと」が必要条件とされる。

 これに対する方法論はGRADE working group が開発したGRADE approach によって体系化されている。GRADE approach ではまず答えるべき臨床疑問を明確化し、それに対するSRを行い、質と結果を評価したエビデンスの集大成をもとに、患者の価値観やコスト・リソースなどといった他の要因を踏まえて推奨を決定する。診療ガイドラインは推奨が記載されているため、"replicatingモード”にて使用することが可能。しかしながら推奨をそのまま盲信的に用いるのではなく、STEP4を欠かさず行うことが必要である。

  2019年3月に日本医療機能評価機構(Minds)にMinds Tokyo GRADE Center が設置され、国内における GRADEアプローチ普及のための拠点となっている。現在、様々な歯科系学会がGRADEアプローチによる診療ガイドラインの作成を行っており、2019年に日本歯周病学会より発行された『歯周病患者におけるインプラント治療指針およびエビデンス 2018』では”GRADE アプローチを用いたインプラント周囲炎に対する外科的治療に関する診療ガイドライン”が掲載されている。

 

15. おわりに

 

 EBMが登場していまだ30年弱であるが、医療情報を取り巻く情勢は大きく変化した。論文検索は容易になり、膨大な数の論文・SRが出版されるようになった。近い将来AI (Artificial Intelligence) と5Gネットワークの出現によって、さらなる変化が起きるであろう。しかしながら、最適な医療を実現することを目的としたEBMの根底にある考え方を見失ってはいけない。真に患者を中心とした医療の実現に向けて、EBMの正しい理解が広まり、シェアードディシジョンメイキングを支えるツールとして正しく機能する日が来ることが期待される。

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