個人データ保護とは何? ⑧
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まだまだ言わねばならない論点は多々あるが、紙幅の残りもわずかであるため、概要だけ列挙しておきたい。
ひとつは、個人データ提供時の「同意」の問題である。「内定辞退予測」を仮に本人の有効な同意(個別かつ明確な同意を得るなど)の上で実施するならば、個人情報保護法上の問題は解決するかもしれない。しかし、それで問題が解消するわけではない。リクナビは、他の同種の就活支援サイトと並んで寡占状態にあって、就活生にとっては利用せざるを得ないサービスとなっている。
そのような状況下で同意を得ることは、独占禁止法の優越的地位の濫用に当たり得るとの考え方が、公正取引委員会から示される意向があると報じられており、近々なんらかの動きがあるかもしれない。厚労省も、「同意を余儀なくされた状態」となることを問題視して、「本人同意があったとしても直ちに解消する問題ではなく、職業安定法第51条第2項にいはんするおそれもあるため、今後、このような事業を行わないようにすること」とする通達を業界団体に対して発出した。
また、仮にそこの問題がないとしても、機械学習(人工知能)それ自体がもたらす問題も残る。予測の正確性とその検証可能性が問われるし、予測が正確だとしても、差別を増長するような不公平な予測となっていないかが問われる。さらに、今回のように寡占化で2、3社ほどしか選択肢がない場合、仮に正確かつ公平な予測であっても多様性が欠如してしまい、たまたまどの予測モデルでも不利に判断されてしまう個人が生じる可能性もあり、全体として統計的には正確な予測であっても、その個人にとっては逃げ場のない社会となってしまうという、避けがたい困難が予想される。
今まさに、人事・採用の分野での人工知能(機械学習)の活用は「HRTeeh」と呼ばれ、新ビジネスの開発が活況を呈している。しかしこれらの問題の解決が求められるだけに、どのような方法で、いかなる配慮がなされた事業ならば不当でないと言えるのか、考え方の整理が求められる。
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