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2020年2月 7日 (金)

エピジェネティクス―生命科学の新しい必修科目―(4) ②

続き:

 

がんとエピジェネティクス

 がんは基本的には遺伝子の変異による疾患である。しかし、エピジェネティクスが関与していることも間違いない。ヒトのがん細胞におけるDNAメチル化状態が調べられた結果、ゲノム全体でDNAメチル化が減少している。そして、がん抑制遺伝子のDNAメチル化が増加している、という2つのことが分かっている。

 前者のDNAメチル化の低下が、がんの発症にどのように関与しているかはよく分かっていない。しかし、後者についての説明は分かりやすい。DNAのメチル化が増加すると、その遺伝子の発現が低下する、ということを思い出してほしい。がん抑制遺伝子のDNAメチル化が上昇するということは、がん抑制遺伝子の発現が低下するということだ。

 がん抑制遺伝子というのは、細胞増殖におけるブレーキのようなものである。そのブレーキ役の遺伝子の発現量が減るのだから、ブレーキが効きにくくなる。その結果、細胞が増殖しやすくなって、発がんの要因になる。

 ヘリコバクター・ピロリいわゆるピロリ菌が、胃がんの原因になることはよく知られている。他の要因もあるのだが、DNAのメチル化もピロリ菌による胃がん発症に関係する。というのは、ピロリ菌に感染して慢性胃炎が起きると、粘膜細胞のDNAメチル化が異常になり、それが発がんの一因になるからだ。

 国立がん研究センターの牛島先生らは、ピロリ菌感染胚があって早期胃がんの内視鏡手術を受けた患者について、興味深い研究成果を報告しておられる。ひとつは、DNAメチル化異常の程度が高かった患者のほうが、胃がんが再度できる率高いということ。これは再発ではなくて、別の場所に新しい胃がんができる率である。

 もうひとつは、ピロリ菌の除菌とDNAメチル化異常の関係だ。除菌を行った場合、DNAメチル化以上の程度が低下するが、その低下の程度は患者によって異なっている。ピロリ菌を除菌してもDNAメチル化異常の程度が高止まりする患者は、胃がんのリスクも高止まりする。このことから、ピロリ菌の除菌を行っても、必ずしも安心できないということが分かる。

 ほかにも、いろいろな種類のがんのゲノム解析から、DNAメチル化やヒストン修飾といったエピジェネティクスに関連する遺伝子の異常が多数見つかっている。そういった異常がどのように発がんに関与しているかはよく分かっていないが、何らかの関係があることは間違いない。

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