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2020年2月12日 (水)

Science Evidence-Based Medicine (EBM) の実践を考える ①

蓮池 聡(日本大学歯学部歯科保存学第Ⅲ講座助教授)さん、及び、佐藤秀一(日本大学歯学部歯科保存学第Ⅲ講座教授)さんの共同小論を記載する。   コピーペー:

 

1. いま再び(EBM)とは?

 

 1991年、GuyattはACP journal clubに"Evidence-based Medicine"と題する1ページの巻頭言を記した。これが Evidence-Based Medicine(EBM)のはじまりである。1996年、SackettはEBMを「①最良のエビデンスと、②医療者の経験に基づく熟練・専門性、③患者の価値観との統合」と定義した。近年ではこれに第4の要素として「臨床的状況・環境」が付け加えられるようになった。創世記からすでに四半世紀が経過したものの、いまだに「EBMは臨床家の経験を蔑ろにし、科学的根拠(エビデンス)を基準に行う医療」といった誤解は拭い切れない。

 さらには「この治療のEBMは……」や「EBMに基づいた……」といった表現に代表されるような"EBM"と”エビデンス”の混同もしばしば見受けられる。EBMとは先に定義した4要素を考慮したうえで行う医療を指す言葉であり、実地臨床におけるプロブレム解決ツールであることを忘れてはいけない。

 

2. 分析的思考のフレームワーク

 

 認知心理学によれば、意思決定においては直感的思考 (System 1)と分析的思考 (System 2)の異なる2つのアプローチが用いられているとされ、これは医療従事者の臨床決断でも同様である。臨床決断のほとんどはSystem 1のアプローチから成っている。臨床家は誰しも、過去の経験を次の診療に活かす。このように経験を積み重ねることによりSystem 1の精度は高まる。しかしながら経験が少ない問題に遭遇した場合にはSystem 1の精度は落ち、これを補うために倫理的かつ体系的なSystem 2を併用する必要がある。

 またSystem 2による臨床決断を重ねることでSystem 1の精度も向上する。EBMはSystem 2におけるフレームワークとして機能せる。EBMでは分析的判断の根拠として”生物医学的知識/病態生理”や”経験豊富な権威者の個人的な意見”よりも、”確実性の高い臨床研究データ(エビデンス)”を重視する。

 

3. シェアードディシジョンメイキング

 

 近年、医療消費者という用語を耳にするようになった。医療者と患者の関係が変容し、患者は医療サービスを自らの意思で受ける顧客へとなった。そして、医療について自身で決断・意思決定しようとする消費者へ変化しつつある。2014年の米国医師会雑誌では"Without shared decision making, EBM can turn into evidence tyranny (シェアードディシジョンメイキングがなければEBMはエビデンスによる暴政へと転じてしまう)”と記されている。

 EBMは患者中心のコミュニケーションスキルと一体になることで、患者との協働意思決定(シェアードディシジョンメイキング)に用いることができる。これはEBMのもうひとつの側面と言えるであろう。

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