Science 歯周病原細菌による血栓モデルからみた閉塞性動脈疾患ならびに静脈血栓の病態 ⑤
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7. バージャー病の疫学
バージャー博士がユダヤ人であること、ユダヤ人が多いニューヨークに住んで患者を集めたことから、ユダヤ人に特異的に多い疾患であるかのように思われた時期もあったようである。しかしながら、診断基準が定まらない時期があったことから誤診例も多く、疫学的考察では我が国も含めて1970年以降くらいからやや正確さを増してきたように思える。また、バージャー病患者の口腔状態は極めて悪く、我々の研究の始まりはそこにあるが、我々の少数のデータからは歯周病の疫学調査は完璧ではない。
個人例の40~50例では、全例が中等度以上の歯周病に罹患しているか罹患したとしている。近年のバージャー病難病指定の書類欄に、歯周病やう蝕の有無についての記載が義務付けられており結果に期待している。
1986年オーストラリア行われたバージャー病の国際シンポジウムでは興味ある結果が示された。末梢動脈の閉塞性疾患のうちバージャー病の頻度は、スイス1~3%、西ドイツ0.5%、フランス1.2~5.6%、ベルギー4%、イタリア0.5%、英国0.25%、ポーランド3.3%、東ドイツ6.7%、チェコ11.5%、ユーゴスラヴィア39%、イスラエル(東欧系ユダヤ人)80%という数字をあげている。因みにインド45~63%、韓国・日本16~66%となっている。
同じシンポジウムでは、335人のユーゴスラヴィアの患者(1975~84年)のうち筋肉労働者14.3%、金属職人9.2%、機械工19.7%、大工6.8%、木こり8.9%、山岳民族4.4%、農夫6.2%、タクシードライバー6.6%、事務員23.9%と報告され、職種の差がないようであった。女性例がその機関では14%で、その前の1967~75年では2.5%であり、その原因は喫煙の増加によるとしている。
アジアではインド、中国、韓国、インドネシア、タイなどで散発的な発表があるが、まとめたものはない。1973年頃から我が国では、厚生省特定疾患対策ビュルガー(バージャー)病研究班が組織され、世界に類を見ない詳しいデータが蓄積されていった。1969年1月から1976年2月までの研究班が行った全国疫学統計を示すとともに2005年の疫学統計結果と比較したい。
1969年からの統計では、診療患者3728例で、疑いは694例と高かった。女性は3.5%であった。発病の分布は北海道から九州におよび特定の地方病とは考えられないとした。年齢分布は40~49歳代が最も多く、人口100万人に94.4人と高かった。発病は30~39歳代が最も多く、40~49歳が61.4人とやや少なかった。1970年代にはすでに減少傾向で、近い将来まれな疾患になるかもしれないとしている。さらにその理由として生活環境、予防衛生の向上をあげていることは興味深い。
職業では上位5種が、会社員、農業、工員、運転手、公務員で、特徴はない。病状は軽快例が41.7%と最も多く、悪化13.1%、急激な悪化1.2%で死亡率は1.0%であった。家族同居人からの発症は1.0%で遺伝的素因も考えられなかった。症状の誘因は不明が57.4%と最多であった。嗜好ではアルコールとの関係はなく、1974年の全国喫煙率(男性78.8%、女性16.7%)はバージャー病患者では92.4%と高かった。発症は足指、下腿に多く、上肢では手指に多かった。切断は約1/3が受けており部位は膝下切断が220例と多かった。
一方、2005年発刊の2002~03年の統計では、バージャー病の医療受給者は2002年9656人(女性1171人)、2003年8711人(女性413人)で、減少が分かる。2003年の新規受給者は110人となっている。受給者の年齢層で最も多いのが60~64歳の590人と、高齢化が目立った。日常生活では正常39.6%、やや不自由44.6%、部分介助5.3%、全面介助0.9%などとなっている。
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