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2020年3月 6日 (金)

エピジェネティクス―生命科学の新しい必修科目―(5) ③

続き:

エピゲノム創薬

 しつこいようだが、主なエピジェネティクス制御の分子メカニズムはDNAのメチル化、ヒストンのアセチル化とメチル化だ。DNAのメチル化とヒストンのアセチル化については、前に述べたように、すでに臨床的に使われている阻害剤がある。そして、ヒストンのメチル化を操作するための薬剤がいくつも開発中である。

 連載第二回目に書いたように、ヒストンのアセチル化は非常に種類が多くて複雑である。しかし、基本的にはヒストンをメチル化する「書き手」、脱メチル化する「消し手」、そして、メチル化されたヒストンに結合して機能する「読み手」から成り立っている。現在、それぞれに対する阻害剤が開発されつつある。

 DNAのメチル化阻害剤やHDAC阻害剤がそうであったように、これら開発中の薬剤の多くは血液腫瘍をターゲットにしており、既にいくつかの薬剤は臨床治験に入っている。そのうちの一つ、ヒストンメチル化の「読み手」に対する阻害剤に、非常に期待の持たれている薬剤がある。この薬剤、動物実験で白血病に効果が認められるのだが、耐性ができやすいということもすでに分かっている。

 悪性腫瘍は、基本的には、発がんに関係する遺伝子の変異によって生じる疾患である。そこに、エピジェネティクスが何らかの影響を及ぼしていると考えられる。しかし、何といっても、本質的な原因は遺伝子の変異なので、エピジェネティクスを探るだけでは、治療効果があるとはいえ、完全に、治癒することは難しいし、耐性ができやすいと考えられる。

 ある疾患が成立するには、複数の要因が必要で、それらの要因を柱として病気が成り立っていると考えてみると分かりやすいかもしれない。つまり、エピジェネティクスが大黒柱のようにして病気が成り立っている疾患では、何らかのエピゲノム薬剤を用いることにより、疾患が成立しなくなる、→治療できた、という考え方。

 前回書いたように、様々な疾患においてエピジェネティクスが関与しているのではないかと考えられている。エピゲノム状態が十分に解析できれば、エピジェネティクスが大黒柱であるような疾患を同定できるかもしれない。しかし、先に書いたような技術的課題もあるので、何時になればそういったことができるか、現時点での予測は困難である。

 エピゲノム創薬について、お分かりいただけましたでしょうか。一言でいうと、すでにエピジェネティクスを操る薬剤はできており、現在も新しい薬剤が試されているけれども、将来的にどの程度有望かはまだよく分からない、ということになります。

 次回は、歯科領域におけるエピジェネティクス研究の現状について述べてみます。

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