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2020年3月16日 (月)

Science 歯周病原細菌による血栓モデルからみた閉塞性動脈疾患ならびに静脈血栓の病態 ④

続き:

 

4. 歯周病菌による血栓の免疫学的特徴

 HE染色したラット血栓の後期2~4週には、形質細胞が出現し、何らかの免疫反応が誘発されていることが推測された。マクロファージの出現も後押しした。この血栓の炎症の広がりは、内弾性板を超えて血管内膜そのものにも及んでおり、血栓症(thrombosis)に加えて血管炎(angiitis)が起こっていることが明らかになった。これもヒトのバージャー病と類似する所見である。バージャー病研究では、血管炎が先行して血栓ができるのではないとされているが、疑問がある。

 バージャー病では免疫グロブリンG(IgG)が弾性板周辺に集まるとのレポートも見ることから、IgG染色も行ったが多方面に出現しており特定できる所見ではなかった。形質細胞は、B細胞の関連細胞であるのでラットでそれに相当するCD79a、CD3を免疫染色した。血栓を含む血管周辺の視野で細胞の出現を10個以下(+)、11~29個(++)、それ以上(+++)とすると、表示2(略)のごとくコントロールが(-)から(+)であったのに対して、歯周病菌血栓では(+)や(++)以上を示す例が多かった。この反応から、P.g菌による歯周病血栓には、通常の自然免疫が起こっていると判断された。この過程においてリンパ球やマクロファージは、各種サイトカインを分泌し炎症組織の遊走・分化を誘発するなどの作用を発揮したと考えられる。

 

5. バージャー病の血管病変

 バージャー病の動脈病変は、その多くが切断肢や、まれに死亡例から検討されている。その所見は、バージャー博士がその研究の中で述べた所見とずれているところもあり、我が国の例が一般的なバージャー病の所見とは言えない例もあって典型的な所見というものがない。また、急性期、亜急性期、慢性期を分けてはいるものの、その間隔が何週なのか何日なのか全く記されていない。我々の実験モデルの病理学的特徴は、急性期に顆粒球が見られ4週間目にはすでに慢性期移行しているという結果になっている。この事実は臨床材料に急性期症例が極めて少なく、所見をとることが難しいという事実をよく表しているように思える。

 急性期に顆粒球がmicro-abscessを作ると言われるが、実験では見られなかった。顆粒球は多く見られ、炎症反応が強いことが示唆された。菌そのものは見られていない。感染はない証拠である。巨細胞もよく見られるという報告と、そうでもないという報告に分かれるが、我々のラットの観察では一個のみであった。石灰化は見られることが多いようだが、当モデルにはなかった。内弾性板はよく保たれるが、断裂などの破壊が所々に見られることは成書と一致する。一定の時期を置いて形質細胞が見られたが、病理学者により出現・同定に差があるように思えた。

 

6. バージャー病の歴史・感染・炎症理論

 バージャー病は、その存在が19 C.以前から認められていたと思われるが、血管を解剖して検鏡し、詳細な所見を残したのは胃切で有名な Billroth の弟子の Winiwarter である。1878年に、57歳男性の膝下切断肢からの血管を初めて検鏡し報告した。その後1908年頃から、ニューヨークにいたバージャー博士は次々と研究発表した。1924年には630 p.におよぶ"The circulatory disturbance of the extremities"という成書を発刊したが、ついに病因を見つけることはなかった。彼は初め、梅毒感染説を述べたが、血清試験発見により梅毒が否定されることになった。しかしその後も Mayo clinic の Allen らとともに感染説を強く主張していた。またAllenは、口腔内感染症が関係している可能性を示唆している。

 たばこの葉につくリケッチアによる感染説もあるが、たばこの葉は燃えてしまうので説明が難しい。最近では2018年に、Toll-like Receptor (TLR)の研究からバージャー病の急性期の患者のみを集めた検討結果で、血清TLR4が有意に高く、この病気はグラム陰性菌による感染が引き金になっているのではないかとされた。この研究は、我々の研究結果をバックアップするものである。

 

 

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