エピジェネティクス―生命科学の新しい必須科目―(6) ①
仲野 徹(大阪大学大学院生命機能研究科時空生物学・医学系研究科病理学教授)さんの小論文を掲載。コピーペー:
エピジェネティクスは、遺伝子の発現制御を介して、数多くの疾患の発症に関わっていると考えられています。もちろん、歯科領域も例外ではないのです。この最終回は歯科領域におけるエピジェネティクス研究についての話題です。あまり多くはありませんが、歯周病とエピジェネティクスについての研究が幾つかありますので、それについて紹介していきます。
■ 歯周病とエピジェネティクス関連酵素の発現
DNAメチル化は、DNAメチル基転移酵素(DNMT) によって触媒される反応だ。口腔内の角化細胞、歯肉の上皮細胞、不死化されたヒト表皮角化細胞 (HaCaT 細胞)などを用いて、歯周病に関連する口腔細菌である Porphyromonas gingivalis や Fusobacterium nucleatum が、これらの酵素の発現に与える影響が解析されている。
DNMTには、DNMT-1とDNMT-3という二種類の酵素があるが、いずれも歯周病菌の感染により発現が低下する。酵素の発現が低下すると、DNAのメチル化低下するために、遺伝子発現が活性化されると考えられる。
一般論としてはそうなのであるが、実際にはDNMTの発現が低下しているからといって、必ずしもすべての遺伝子においてDNAメチル化が低下しているわけではない。たとえば、P.gingivalis あるいは F.nucleatum いずれかの感染でのみ、とくていの遺伝子のDNAのメチル化が促進あるいは制御されるなど、個々の遺伝子でDNAメチル化異常のパターンが違っていることが報告されている。今後のさらなる検討が必要だ。
遺伝子発現に影響を与えるヒストン修飾には、第2回で説明していたように、主なものとしてアセチル化とメチル化がある。いずれも「書き手」と「消し手」があり、アセチル化を「消す」のはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)である。ヒトではHDACは18種類も存在するのだが、HDAC-1とHDAC-2は、P.gingivalisおよびF.nucleatumの感染により、発現が有意に低下する。HDAC活性が低下するということはアセチル化の「消し手」の量が減るということなので、ヒストンのアセチル化は上昇する。すなわち、遺伝子発現が活性化される可能性がある。
このように歯周病菌の感染は、DNAメチル化酵素やHDACの発現量を介して、エピジェネティクスに影響を与えていると考えていいだろう。
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