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2020年3月15日 (日)

Science 歯周病原細菌による血栓モデルからみた閉塞性動脈疾患ならびに静脈血栓の病態 ③

続き:

 

3. 歯周病による血栓の性状と病態

 歯周病菌を含む血栓を作ることは簡単ではない。まず、菌血症を作り末梢動脈に血症を作る実験を行った。持続静注セットで歯周病菌をラットの頸静脈から注入。2週間後、4週間後に菌DNAを同定してみたら四肢末梢に集積していた。予想通りの結果であったが、ラットの手や足の病理切片では病態を知ることはできない。そこで適当な太さの血管に菌を植え付けることになったのである。同時に動物愛護の規定からその操作により足が壊死に陥ったり、全身の敗血症などを起こして死に至らしめることもできない。そこでラットの外腸骨動脈・静脈を用いることにした。ここなら結紮しても壊死は起こらない。

 菌と血管壁との反応は、グラム陰性菌特有の細胞表面にあるLPS (リポポリサッカライド)による血管内皮の破壊によって始まると考えられる。

 血管に菌を入れる方法はいろいろあるが、わずかな狭窄部位を作って、そこに菌を入れても血栓はできない。菌は流れてしまう。完全に閉めたソーセージ様にした血管に菌を入れた場合は、確実に血栓はできるが、数日後にまた麻酔下に切開して糸をほどかなければならない。さもないと再管疎通の現象を期待できない。それに煩雑である。そこで我々はモノフィラメントのナイロン糸を用いて、血管を2か所ソーセージ様に軽く結紮し、そこに菌を細い注射針から注入した。経験的にモノフィラメントのナイロン糸は滑りやすく、結紮部はじわじわと緩んでくる。こうして再菅疎通の機会を作りやすく工夫した。

 期待した通りラット全例に血栓が形成されていた。また、術後抗生剤は投与しなかったが創部感染を思わせる所見は認めなかった。HE染色とEVG染色を行うと血栓内のすべての細胞と血小板、弾性板、線維、平滑筋、再菅疎通、浮腫などがきれいに観察できた。

 顆粒球の出現などを主たる変化とする血栓血管炎の初期が7日目の材料に、弾性板の破壊、顆粒球の消褪など亜急性期が14~18日目に、マクロファージ、形質細胞などの出現、線維成分の増大が28日にみられ、慢性期の病理像に一致。巨細胞も観察されたが石灰化は認めなかった。

 このラットは健康で、後述するバージャー病の診断基準に触れる粥状硬化症を引き起こす糖尿病、高血圧、脂質異常症などが含まれていないことから閉塞性血栓血管炎(バージャー病)モデルとしてふさわしいと判断された。

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